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血族社会観から見たアジア身体文化史 3・儒者の反乱

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 前回は、古典的な中国宗族社会におけるもっとも早い血族の発展手段は、後宮に一族の娘を送り込むことだということを書きました。

 これは非常に納得がいくことなのですが、面白いことにまさに陰陽思想よろしく、この有力手段に反抗する力があるのです。

 それは儒的教養です。

 儒教と言うのは神話や伝説の中にある王朝の禅譲と言う物を神聖視しています。

 対して、易姓革命と言う物を認めていない。

 あくまで、天命が尽きた姓(宗族)が次に天命を得た姓に皇位を譲り渡すことによって天下の太平がなるのだということを考えています。

 神話の中にある商王朝に対して周王朝が易姓革命を行ったと言う記録は、民間の物語としては「封神演義」として語られています。

 この物語の中では革命の直接のきっかけは商王朝最後の主である殷紂が妲己と言う毒婦に目がくらんで酒池肉林の暗君となったことだとされています。

 道教的物語である封神演義ではこの妲己は、天が人民に易姓革命を起こさせて商朝に引導を渡すために遣わした狐狸精だとされています。

 そのため、妲己によって悪逆の道に導かれた紂王は悪の限りを尽くして諸侯の反乱を招くのですが、ここに二つ、面白い要素が垣間見られます。

 一つには、妲己の戦略と言うのが上述の後宮を舞台とした物であるということです。

 ここには当時の社会における後宮に女性を送り込むことで動く権力の大きさが如実に描かれています。

 もう一つは、革命を起こした諸侯の存在です。

 この諸侯、すなわち地方貴族と言うのが中国の伝統的な地方勢力、すなわち有力宗族なのですが、彼らが決起して後宮権力と対立するというのは、要は天下を背景にした諸侯同士の権力争いだということになります。

 易姓革命と後宮に入るのが権力への道だと書いたのはこういうことです。

 易姓革命を否定する儒家としては封神演義などという物語は俗悪なフィクションだと言うことで禁書にしていたそうなのですが、それによってかえってここに現実に働く力と言う物と儒者のスタンスと言う物が明確に浮き彫りになっているように感じます。 

 この周王朝の時代の後、中華は長い戦乱の時代に入り、統一王朝としての秦が登場します。

 秦の始皇帝によって科挙制度が制定されるのですが、これは前にも書いた通り、まんべんなくあらゆる人民が官僚になれると言う制度です。

 中華世界の特徴的な制度で、外国人であっても審査によって政治に介入が出来ると言う非常に公正と言えるシステムなのですが、どうじにこれ、諸侯の勢力を削ぐための政策でもあります。

 すなわち、有力な地方勢力であるいかなる宗族も、直接その血族を理由に国の運営に関わることは出来ない。

 あくまで彼らが根付いている地方を支配するのは科挙に合格して朝廷から送られてきた役人であって、現地の土豪ではありません。

 この秦朝が滅びた後、戦乱の中から項羽と劉邦で有名な前漢王朝が立ち上がります。

 その過程を描いた文書として有名な「史記」があります。

 これは司馬遷による中華の正史として制定されている物なのですが、この中で描かれているのが、以前から私が何度も引用してきた「我が一族の安寧ばかりおもんばかるのは小人の私事である」と言う考え方です。

 秦朝の時代には焚書坑儒(書物を燃やして儒者を埋める)という一種の反知性主義が横行していたのですが、一説にはこれによって知性主義者の反発を買い、それが秦朝の崩壊につながったとみなす識者もあるようです。

 前漢はその反撥側の思想を受け継いで儒者の力が増し、儒教王朝とも呼ばれており、中国においてその後長きにわたる儒教的価値観を根付かせた時代だと言えます。

 ここに再びみられるのは、宗族主義への強い反発です。

 儒教と言うのは鬼神(祖霊のこと)信仰によって宗族性を認めながらも、自分たちの血族のことばかり考えているのは俗人で、自分たちの家族をいたわるように天下を思う人間が政を行ってこそ世が安定するという政治思想です。

 これはつまり、有力な宗族を懐柔しつ教化し、その血族主義を解体、実力主義の科挙制度に取り込んでゆこうと言う姿勢が顕れています。

 

                                                                        つづく

 


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