鶴拳類の研究のお話です。
初めてこのページを見てくださった人のために改めて書きますが、ここでは少林に伝わる把が、鶴拳として南進していわゆる南派拳法にまでなったという説を検証しております。もしご関心お持ちいただけましたら、以前の記事など見ていただけましたら幸いです。
と、言うわけで、今回は、もっとも世間に広まった把の直系武術である形意拳を、この視点から分析してみたいと思います。
私自身、南派になるまでは形意拳をしていましたが、とても伝人の功夫はなく、あくまで一般の練習者としての腕前に過ぎません。
なので、そちらに関しては巷間に公開されている情報に基づいて考察してゆくことになります。
さてそんな程度の見識に照らし合わせ形意拳とは何か、という問題に目を向けてみると、これが実に珍しい、コンセプトの非常に明確な武術であることが分かります。
すなわち、形意拳とは外三合と内三合の理論によって五行拳十二形の技法を用いる拳法であり、心意六合拳と共通の訣として、五つの動物の動きを取り入れた身法と、五つの文字であらわされる字訣がある、ということです。
私ははじめにこれを知ったときに「あれ？ じゃあその内側の要訣さえ守っていれば外見はどうなっても中身は形意拳なんじゃないの？」と思ったことがありました。
実はその傾向は実際に強いらしく、他の武術と融合する拳法として知られています。
そのため、ある先生は外見は太極拳だが中身は形意拳だ、とか外見は長拳類だが実態は形意拳の勁を使っている、というようなことを良く耳にします。
これらのことは、私が推測している、把の武術の特徴です。
外見ではなく練功法であるため、外形より実相を替えてゆき、強い勁を養うことにほんしつがあるのが把という物の独特の存在だと思っています。
つまりは、形意拳に伝わっている五行拳と十二形の十七の形を置いておいて、残りの五つの身法と五文字の字訣を掬いあげると、把の要訣が見えてきます。
まずは身法から分析してゆきましょう。
これは、鷹爪、鶏腿、龍腰、熊膀、虎包頭です。心意六合拳にはもう一つ雷声というのが伝わっていますが、形意拳になって失伝したようです。
これら五つの内、鷹爪は私たち蔡李佛の十字訣で言うと拿に当たります。
内功で言うと、気を通して勁を繋ぐコツで、鉄線功に通じます。これは、同じ鳥である鶴の爪と表現しても差し支えないでしょう。
鶏腿は腿法の要点と言われます。内功的には立ち方、主に独立の軸の立て方、さらにかみ砕くと単重の要領のことだと思われます。これも鳥なので、充分に鶴拳の要領と共通していると言っていいかと思います。
次は龍腰です。
これは腕と体幹の連結の仕方だと習いました。
うちの練習では三階と呼んでいる部分の存在を意味しています。
龍というのは肩が無く、胴体からいきなり手が生えているので、勁の連絡が切れやすい肩関節の消し方を伝えていると解釈できます。
そしてそれはつまり、鶴で言うなら翼です。
これを、体幹の方からのアプローチと対になる腕の方からのアプローチで表現したのが熊膀です。
言葉の意味は熊の腕で、肘から屈伸運動をしない熊のような腕の遣いを伝えているのですが、これを鶴拳類の視点から見てみましょう。
熊というのは、以前も書きましたが中国武術で言うと猿拳の大型の物を表すときに使われます。
この場合の猿と言うのは通臂猿です。つまり、通背を意味しています。
通背して背中の中でつながった腕がこの熊膀のことです。つまり、我々が言う鉄線です。龍腰からつながった、鶴の翼の別角度からの言い方ということでしょう。鶴もまた、途中の関節を屈伸させて何かをしたりはしません。
最後の虎包頭とはなんでしょうか？
これは師父によって意味が変わるようですが、虎が獲物を襲うときのように全身でぶつかってゆくという意味であると解釈して良いようです。
つまり整勁です。
我々が表現する鉄球の勁であり、戦法としては飢虎擒羊のことです。
虎が鶴であるとはなかなか思いにくいのですが、全身を一本足立ちを始めとして一つの勁でつなぐというのは鶴拳類の最大の特徴です。
そのように解釈していただいて、次の五つの字訣の解釈に入ってみたいと思います。
つづく