おそらくこの記事がドロップされるころにはすっかり古くなっているでしょう、アカデミー平手打ち事件についていくつかの視点とレイヤーから書いてみます。
実際に起きた出来事というのは、視界のスタンダップ・コメディアンのクリス・ロック氏が受賞者のウィル・スミス(A.K.A フレッシュ・プリンス)の奥さんジェイダ・ピンケット・スミスさんの髪形をいじったことでウィル・スミスが激昂、ロックにビンタをかましてFワードで罵倒、ということのようです。
以前、初のキャスト、スタッフ、黒人種で固めたマーヴェル映画「ブラック・パンサー」が好評を得た時には、オコエという人気キャラクターが居ました。
彼女と彼女の配下の兵士たちはみな坊主頭の女性です。
また、ファッション・ショーでも同様の髪形の女性はそれほど珍しくはない気がします。
だとすると、ハリウッド・セレブの女性がボールド・ヘアーだったとしてそれほど危険だと言う信号は感知しやすい物ではない気もします。
お洒落でやっていると受け止める向きは少なくない気がするんですよね。
だったら司会のコメディアンがいじることはそれほど不思議ではない気がします。
結果的に踏んではいけない地雷だったというのは不幸な事故のようにも感じます。
もちろん、多くの人が集う年に一度のセレモニーをぶち壊しにしたという意味ではウィル・スミスに非難が行くことはあるのでしょうが、ならば手を出さなければ何をしても良いのかと言うことになってもまた不味い。
天声人語では、あれはまるで忠臣蔵の松の廊下のようだったと言う記述がありましたが、確かにそうも受け取れます。
だとすると事後の対応として一方のみの責を問うのは芳しくないような。
幸い、ロックは思慮深いらしくて事件に関しては一切コメントをしていません。
彼のファンがウィル・スミスを攻撃する発言をしても制止をしています。
笑わせようとしたジョークが滑ったことに反省しているのではないでしょうか。
多くのセレモニー参加者が発信しているのが、非常に暴力的な行為でショッキングだった、ということです。
確かに、暴力は観る物を傷つけます。
それに対して「じゃあもう暴力で報復する映画とか評価するなよ」というネットの声を見ました。
アヴェンジャーズとはそういうことをする人たちという意味なので今後もう受賞は出来ないのでしょうか。
いえ、そういうことではありません。映画のフィクションとしての表現の自由を守ることと、現実の暴力を肯定することは別物です。
私などは実際に暴力の世界で育ってきたのでその辺りの皮膚感覚が非常に混同しやすい。
ウィル・スミスだってダメージを与えるような攻撃では無くて、単なる侮辱のためのビンタをしたに過ぎないので、あれくらいはいいだろうと思ってしまっているところがあります。
本気でやっつけようとしたわけではないのは明白です。あくまで意思表示としてのビンタだった。
なので、コップの水をぶっかけるくらいにしておけば話が違ったのかもしれません。
暴力が場の空気を壊した、もう「残酷だけどただのジョーク」で笑える「空気」を破壊したことがおそらくは問題だったのではないでしょうか。
これは、社交界の秩序の問題であるように感じます。
日本人が大好きな「空気」の話です。
つづく