フィリピン武術に、レドンダと言う言葉があります。
レドンダと言いますが、実際には発音で聴くとリドゥンデみたいに聴こえることが多いし、具体的にもどうやら特定のルーチンのことのようでもあるし、また概念のようでもある。
南米系のスペイン語で聴くと、完全に音としては「レドンダ」とはっきり聴こえますがこれ、いみは「何処」ということのようです。
だとすると、このレドンダの肝要部はすなわち空間認識ということでしょう。
そう。フィリピン武術は流派ごとにまったく違うことをやっていて、フィリピン武術やアーニス、エスクリマなどと言った場合には「剣法」くらいの大枠の概念にしかならないのですが、それら多くの流派を越境してこの空間認識の概念は重要な物として語られています。
これは私は分かりやすく「フェンスの概念」として生徒さん達には説明していますが、多くの先生方が「哲学的概念だ」「幾何学のことだ」などと言っていたりします。
つまりは、空間に仮想の走査線を想定して、それによって空間を分類して対応する、ということです。
ある派においてはこれは「クエンターダ(推測)」と呼ばれており、またあるマスターは目が見えなくなっても相手が打ってくるとこれを認識して防ぐことが可能で、決して打ち込まれることはなかったと言います。
多くのフィリピン武術は高速で連環するので「速い」と言う要素もありますが(実際にラピードという言葉が使われます)、速いだけでなく「早い」。
あらかじめ空間認識能力によってこれからくる攻撃を察しており、すでにそれを避けたところにおり、また次に相手がいる場所へと攻撃を行います。
単に反射神経だけでやっていると「そうじゃない、もっとソンブラしろ」と指摘されます。
ソンブラとは日陰に入るということ。
つまり、あらかじめ相手の攻撃を避けているということです。
そして攻撃する時もまた、相手の防御の陰へ陰へと入ってゆきます。
囲いを作った相手の木刀の陰に入ってわきの下を突いている、というようなことが得意な戦法です。
この要領を自然に見出して、活用できるようになる、というのはエスクリマのとても面白いところでしょう。