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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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ないと思うよ

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 このところ、ツイッター上で目を引く投稿が流れてきていました。

 とはいえ、私と直接関係がある訳ではないつぶやきだと思っているので、直接の関与は一切していないのですが、そこで何人かの人々が書いていることというのは、かねてから私が主張していることと同じでした。

 あるいは、私が過去に書いた記事を読んでいる人も中には居たかもしれません。

 一体どのような内容かと言いますと、それはつまり、日本古武術には独自の身体操法とかないよ、ということです。

 これは少し前にも、産業革命以前と以後で人間そのものが変わってしまったという記事で書きましたね。

 人間の生理と構造そのものが変わったからやっていることが変わっただけで、元々日本古武術独自の体系化された秘伝的な身体操法という物などはない。

 もっと丁寧に言うなら、そんなものがあったと言う証拠は現状存在していない。

 元々この発想は、90年代に新古武術が発信した物で、そこでもまた、産業革命前後での身体の違いということが語られていました。

 そのために、現代人がやっていることとは昔の人がやっていたことは違ったであろう、ということがちゃんと明言されていました。

 しかしいつの間にかそういった発想が見落とされて、表層的に技術によって昔の達人の動きが可能になる、というような概念が通底するようになってきました。

 世間に実際には何もやっていないことを教える自称先生や自己流古武術愛好家が大量に現れたのはその発想に乗っかった物でしょう。

 ではそこに関して私がどう感じているのかというと、まぁ、要は、偽物だしウソだし出来てないし……というのが正直なところです。

 これは、ちゃんと物理的に明確な秘伝の身体操法と言う物が継承されてきている中国武術側の人間だからこそ、強烈に感じるところです。

 日本にはないけど中国にはあるんですよ。

 あとは恐らくは、いまでもインドにはひっそりと。

 これは、社会学上の理由によります。

 日本古武術というのは、士族階級の支配する社会と言う物を背景に成立してきました。

 士道不覚悟なんて言葉があったように、武士の家に生まれたら武術が出来なければいけないと言うことになっていました。

 少なくとも表向きには。

 逆に、特殊な例を除いては平民が武術をすることは禁止されても居ました。

 秀吉の刀狩りとはつまり、そういうことであるというのは脳科学者の養老孟司先生と新古武術の元祖の先生の対談本の中で語られていることです。

 刀狩りこそが士族階級社会を規定するものだったというのは、日本の歴史において非常に特徴的なことだと思われます。

 平民が大小の刀を差していても、武士が刀を差していなくても処罰がされていたと歴史の授業では習いました。

 ですので、当然武術は独占階級の物とならざるを得ない。

 そしてその独占階級と言うのは、軍人であると言えば勇ましいですが、実際には肉体労働や事務仕事を本業とするお役人です。

 専門家に独占されて居ながら、その専門家は武術を専門とはしていなかった。

 つまり、昔に武術をしていた人達というのは現代で言うところのプロアスリートのような人達ではなかった訳です。

 間違いなく江戸時代最高の武術家の一人だと言えるだろう柳生宗矩でさえ、惣目付という役職を本職とするお役人でした。

 朝から晩まで剣術をしてそのことだけを考えていたという人ではありません。

 一流の武術家までそうなのですから、その下の弟子たちと言えば言わずもがな。

 初めに書いたツイートの中の一つでは、当時の武術家の能力は現代のアスリートの常識的なレベルだろうということを書いている物がありましたが、練習量と練習環境で言うならば、間違いなく現代アスリートの方が恵まれていると言えましょう。

 当然、後継者の才能を測ろうと言っても、きわめて狭い人口の中から選ばなければなりません。

 後年、町人の間で剣術が流行して町道場が商売として成り立つようになったころには、行われていたのは竹刀剣術が中心でした。

 いまの剣道と同じで、本当に刀を使う練習をしていたわけではありません。

 ある時代小説家の説では、宮本武蔵や佐々木小次郎のような本当に人を切っていた時代の武士と江戸期の竹刀剣術とで比べたら、圧倒的に竹刀剣術の方が「速い」だろうとのことでした。

 もちろんこれは作家の一説なのでどこまでの信ぴょう性が担保されている物かはわかりませんが、刃筋や急所への切れ味を問わず、とにかく棒で素早く相手をひっぱたくという技術に関してだけ言うならば、アスリート的に趣味として剣術をやっていた竹刀剣術の方が速いであろう、というのは納得がいくお話です。

 だって、本当に命を懸けて真剣で切り合いをしていた人達、別に素早く竹の棒で相手に触る練習する必要なかったでしょうし。

 という訳で、明治以降に古武術と呼ばれる江戸期の武術は、基本的には特別な身体操法と言う物があったということは状況的にも考えづらい。

 実際に明治期に現代武道が現れたときに、ほんの数年前まで江戸時代の武術をしていた先生たちは、こぞって現代武道にスライドして言っている訳ですから。

 私が若かったころの柳生家の当代などは、ご高齢になっても剣道が物凄く強かったそうで、警察の師範をしていたとのことでした。

 つまり、古武術も現代武道も身体の使い方と言う意味では基本的にはやってることは同じだと言って差し支えないでしょう。

 この世代の先生方のお話でも、昔の先生方が何か変わったことをしていたという話はありません。

 ただ、特別な一握りの先生が何かつかみどころのない動きをしていたというお話はあります。 

 そしてそのお話は、その後継者の人達によって語られているのであり、つまりは継承されているような体系化された技術ではなく、一代の天才的な身体能力であったという見方が出来ます。

 現代のまっとうな古武術をやっている人たちが、こぞって「古武術に身体操法なんてないよ」と言い続けていて、由来のうろんげな創作武術家だけが「身体操法が……」と言い続けている。

 古武術身体操法観そのものが幻想であると言うことがよくお分かりになりますでしょう。

 このようなツイートが出回る少し前には、武術界隈の人達の間では「YOUTUBEで師匠は探すな」というトピックが出回っていました。

 武術動画コンサルが付いて、そこと契約している武術YOUTUBER同士がコラボしているような人達の動画、基本的にはその構造で分かるように、エンターテインメント、演出された見世物です。

 映画や演劇、プロレスの類であって、観て入門すればそこで上映されていることが出来るようになる物ではありません。

 新古武術に端を発した武術ブームはそこで作られた創作身体操法幻想に乗っかってどんどんとホラが大きくなっている。

 結果、マジメ格闘技をしているアスリートたちからはヒ弱いと見下され、本当に身体を使っている中国武術家やヨガ行者、キャリステニクサーやダンサーからは、出来ていないと見下される。

 そういう惨めな存在にわざわざなることを志望するのは、それよりさらに惨めな環境である人達なのかもしれません。

 だとしたら、まぁやらないよりはやったほうが向上ではありますね。

 でもそれ、やっぱり惨めで何かをやったふりをしているだけなので、もっと本当に何かをしたほうがいいと思いますよ。

 人生のリソースと言うのは限られた物です。

 どうしてもその使い方を間違えたために手に入らなくなる物と言うのが存在します。

 例えば私は体重が90キロ近く、筋肉体重が63キロ以上あります。

 これは平均の三倍ほどの筋肉量です。

 ジムに通ったりして作った物ではありません。

 基本的には、子供の頃からやって来た格闘技と中国武術で作られた物です。

 一般に、純筋肉量で言うと、一年に1キロしか増加することはないそうです。だからボディ・ビルダーは背が低い人が多いし、減量で筋肉を大きく見せる必要が出てくる訳ですね。相対的な問題です。

 つまり、40過ぎて平均的な筋肉量の人なら、あと三倍に筋肉を増やすにはもう40年くらいかかるんですね。

 もちろん理論値で、実際には60過ぎてから80まで、毎年1キロづつ筋肉が増やせるかどうかは極めて難しいことでしょう。

 これが、人生のリソースが間に合わなくなることがある、ということです。

 本物を始めるのに、早すぎるということは、おそらくないのですよ。

 もっとも良い物を長くやることがもっとも自分を良い方向に導く方法でしょう。

 言い訳をして逃げているよりも、少しでも間に合ううちに、自分の人生に対して誠実になったほうがよろしい。

 私自身、最も良い方向を求めて生きてきましたが、突発的に起きた世界的な危機により、やはり人生のリソースがだいぶ足りなくなることになりました。

 ここの記事を読んでいた皆さんの中には、そのことを書いたことを覚えている方ももしかしたらいらっしゃるかもしれません。

 もちろん、幸運にもその代わりに素晴らしい宝を得られることにはなりました。

 しかしそれも、最善を求め続けて来たからです。

 どうか皆さん、人生を無駄に費やして失ってしまいませんよう。


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