これまで、ロシアによる情報工作の影響が大きいとして、アメリカでのQアノンによる議事堂乱入暴動とドイツの保守組織「帝国時の住人」によるクーデター未遂事件、およびブラジルでの暴動について書いてきました。
ブラジルでの事件は、最高裁判所、連邦議会、大統領府が実際に攻撃を受けたため、その事件規模の大きさは後におこった事件になるほど大きくなっていると言えます。
これらの事件に共通するのはみな、ネット上の陰謀論によって引き起こされたということです。
初め、アメリカではネット上でそれらの情報に対して愛着を示す人々は「オルタナ・ライト」と呼ばれました。
オルタナ右翼ですね。既存の物と比較したうえでの新しい右翼です。
ネット上での陰謀論なんてのはそれまでは、モルダー捜査官を始めとしたイケてない根暗なナードたちが馬鹿げた救済を求める仲間同士の噂話、というのがそれまでの印象だったようですが、21世紀になってその「イケてない根暗なナード」となったのはそれまではアメリカのイケてる人たちの代名詞であった、カウボーイたちでした。
時代が変わって、彼らはもう社会からはじき出された存在になりました。
「おい、あのナヨナヨしたギークどもが家に帰って暗い部屋で一人でナニをしてるか知ってるか? コンピューターの前でチャット(小鳥がさえずるの意味)だってよ。キーボードを叩いておかまのティーパーティーをしてやがるんだぜ!」とバカにしていたようなことを、カウボーイたちが行っては連帯するようになりました。
そこに目をつけたのがロシアでした。
初めは架空の人物のFBページなどから、ダイレクトにロシアやプーチン大統領を賛美する投稿をしていたのですが、これはさすがに失敗。
しかしこのやり方を継承して成功させたのが英国のケンブリッジ・アナロティカ社です。
この会社はネット上の投稿から有権者のプロファイルとマーケティングを行うコンサル会社ということになっていましたが、実際にはそこからさらに踏み込んで、統計学を裏付けとした洗脳広告の発信を行っていました。
このため現在では、プロパガンダ企業だという指摘をされています。
要するに、統計学的データに基づいて洗脳されやすい人たちに反応の出やすい洗脳広告を送って自分たちの情報漬けにするということをしていたのですね。
この会社にはCEOが居るのですが、資金を運営していたのはロバート・マーサーというアメリカの大富豪でした。
彼は共和党の大口資金提供者であり、トランプ政権のスポンサーでもあります。
また、同社の副社長はトランプ政権の初代最高指揮官であったスティーブ・バノン氏です。
つまり、現場の運営はCEOが行っていましたが、その資金はトランプ側から出ており、最高役員もトランプ陣営だった。
これによって洗脳された人々は選挙でトランプ氏に投票し、彼の政権を樹立させました。
この極めて効果的だった洗脳プログラムですが、提供したのはアレクサンドル・コーガンと言うロシアの技術者です。
彼はこのプログラムに必要だったフェイス・ブック・ユーザーの個人情報盗用によって議会に召集をされて喚問を受けましたが、自分はただ技術を作っただけで使った会社が悪いという形で逆切れをしました。
しかし、これは明らかに表層的な誤魔化しであると見受けられます。
なぜなら、トランプ大統領とクリントン議員が大統領選を行っていた頃、このプログラムを介してロシアはアメリカ国内の極左と極右に対して同洗脳工作を行っていました。
結果的には極右のカウボーイたち、あるいはヒルビリーたちが支持するトランプ政権が勝利したのですが、それはあくまで結果にすぎません。
ロシアが狙っていたのは、どちらが勝つにしても国内が分断して混乱に陥るということです。
政権確立後、運が悪いことにパンデミックが発生しました(この件によって中国による画策を疑う人が多いですが、誰が得をしているのかを複数の角度から検討すると、なぜかすべての矢印がロシアに向きます)。
このパンデミックにおいて、更にロシアは同じルートを用いて反ワクチン、アメリカは闇の政府に支配されているという陰謀論をばらまきます。
そもが洗脳済みのトランプ支持者のカウボーイたちはあっさりと洗脳されました。
彼らはQアノンと名を改め、アメリカ大統領府での暴動を起こすに至りました。
ロシアは見事、遠隔攻撃で敵国の中心を叩くことに成功したのです。
ちなみに、初期の頃にオルタナ右翼と呼ばれていた一派の中心に、プラウド・ボーイズと言う人たちが居ました。
彼らは人種差別や性差別を叫び、トランプ政権を支持していましたが、この襲撃事件には関与していませんでした。
そこから見るに、恐らくは元からの保守層、カウボーイ右翼たちは、アメリカに忠誠を誓っているために一線を確保していたのではないかと思われます。
洗脳によってトランプ支持者になったQアノンの方が、初手から持っていた思想ではないだけに操られやすいのではないかと思われます。
ドイツによる右翼団体におけるクーデター未遂でも、やはりロシアが浮かび上がりました。
彼らのリーダーであった没落老貴族には歳の離れたロシア人の恋人がおり、政府転覆が成功した暁には彼女の手引きでロシア政府と協力をし、ドイツの運営を行ってゆく計画だったと言います。
彼等もまた陰謀論による闇の政府の存在を信じており、この計画は軍部や法曹界にまで及んでいて、逮捕者の中には軍人や裁判官が含まれていました。
50か所以上のアジトからは、軍から流出した大量の兵器が押収されています。
今年一月にブラジルで起きた襲撃事件では、ブラジルのトランプと呼ばれるボルソナーロ元大統領が、最新の大統領選で現大統領のルーラ候補に敗北したにも関わらず「不正選挙だ」とトランプ氏と同じことを主張し、まったく同じ形をなぞって支持者による大暴動を引き起こしました。
この件がアメリカにおける物よりさらに規模が広がっているのは、アメリカでは謹直な警官たちが職務を果たし殉職者まで出したことと対照的に、ブラジルで警備を担当していた警察官や軍人が一切の義務を放棄していたことです。
破壊行動や略奪を働く陰謀論者の脇で、ペットボトルで飲み物を飲んでいる警官の姿を観ることもできます。
これは、彼らの上位に居た法務大臣がすでに陰謀論者側であり、暴徒に内通していたからだと言われています。
現在、彼はテロ加担者として逮捕対象者となっています。
事件当時、彼らの対象であるボルソナーロ元大統領は、フロリダにあるトランプ前大統領のお膝元に避難していました。
ブラジルにおけるこのテロ行為の調査では、トランプ一派の工作員がすでに逮捕されてもいます。
そして何より、暴動の前段階で、例の黒幕であるスティーブ・バノン氏が自身のポッドキャストにおいてブラジルの人々への暴動を扇動する内容を発していたことが決定的となっています。
やはりこの件も、彼の扇動によって発生していた。
あるいは単に模倣犯に過ぎないのかもしれませんが、まったく手口が同じなのも納得の出来るお話です。
そして、前述したように、このバノン氏が繋がっているのがロシア。
暴動を起こした人たちの陰謀論の中には「暴動当日にはロシアから戦車が応援にやってくる」という話も流れていたと言います。
その戦車、一体誰が操縦していると思ったんでしょうねえ。
訓練を積んだ専門家でないと不可能なはずですが。
語るに落ちたと言っても良いのではないでしょうか。
この事件が起こったのは1月8日です。現在では発生した日から「黒い日曜日」と呼ばれています。
この二週間ばかり後の20日、ブルキナファソでは現地駐留をしているフランス軍に対する大規模なデモが起きました。
このデモ隊がね、なぜかプーチン大統領の写真を掲げて行進しているんですよね。
なんででしょうね。
ここまで読んでくださった皆さんにはお分かりいただけることでしょう。
彼らは国体を転覆させて、ロシアと提携したいとの主張をしています。
ドイツやブラジルと同じことを言っていますね。
言わせていますね。
この二年前、同じく旧フランス領であるマリでは2020年、クーデターが起きて軍事政権が樹立されました。
これがね、やはりロシアを後ろ盾にしているのです。
それでね。
いま、日本でも、反ワクチン、ノーマスク、そして闇の政府だっていう陰謀論が広まっています。
女性差別や人種差別も強くなっています。
明らかに同じことが起きて、分断が画策されていますね。
政治関係者の中にも、これらの運動を推進する人々が増えてきました。
少し前に、テレビのモキュメンタリー番組出身の格闘技選手が居ました。
彼はまともな相手との試合はせず、誰も知らない地方のアマチュア選手と戦うなどの演出の下で、パフォーマンス中心のことばかりをしていました。
その彼が今、やっぱり反ワク、ノーマスクを呼び掛けています。
どこにでもいるそういう連中が、そういう利己行為によって侵略者にあまりにも多くの物を売り渡している。
自分の感情さえ良ければ、何を売り飛ばしても構わないような、そういう人間を大量生産してきたのはこの国の歴史の責任でしょう。
こういう物を、愚民化政策、反知性主義と言います。
個人的感情を吐露することが許されるなら、大変に情けないと言わせていただきます。