先日、ロバート・ハリスさんの番組で彼が仲良しの大東文化大学の教授と話しているのを聴いていた時に示唆を受けたのですが、日本最古の記録書とされている古事記は8世紀くらいの成立なんですよね。
それまでは日本には文字文化は無かった、と教授は言います。
仏教の伝来に伴って仏教文化という物が伝来します。
文字というのはその中の物ですね。
なので初めはみんな漢字だった。それを日本語に当て字して読んでいた訳です。お経を見るとそれが分かりますね。
そこから日本固有の文字が生まれたのは弘法大師空海の時代だと言います。
が、それはあくまで仮託であって、実際には東大寺のお坊さんたちの共通認識としてカタカナが生まれたのだろうということでした。
丸丸全部感じで模写をしていては時間も労力も大変なので、漢字の一部を抜いて暗号として速記に使っていたのがカタカナの始まりだと言います。
お経を教えるために渡来していた中国人僧たちも、この略字には片目をつむって黙認していたのが普及の要因だったであろう、と言われています。
そこから平安時代になると女文字、つまりひらがなが普及して言った。
この、漢字の当て字を音で読むという文化は江戸時代までは変体仮名文字として用いられていたようですが、近代化以降は目にしなくなったようですね。
で、ですね。
以上のような文字文化の歴史を踏まえておくと、現存する「公称」とされている日本の歴史が存外に短い物であることが見えてきます。
八世紀以降の物しか記録に残っておらず、それを土台として文化が形成されてきた訳ですが、その文化ってのはつまり、仏教文化です。
日本は仏教文化圏であるという平素から繰り返し主張していることの土台がここに観られます。
つまりは、島国であることでガラパゴス的進化をしては来た物の、本質的には歴史上中華文化圏の一国だと見なせるということです。
その部分を否定して日本独自の文化を模索するとなると、古事記以前の文化が日本文化ということになりますが、何分記録がない。
外国の書類に日本最古の記録を求めると、これは有名な魏志倭人伝ということになります。
あの三国志の曹操がおさめた魏朝が東海を調査に出た時の記録ですね。
そこで描かれるのは、全身刺青だらけ、動物の骨を焼いて占いをし、その呪いを差配する呪術師の女王が支配するという文字文化以降の日本とは全く異なるワイルドな、言い方が悪いのですが「土人」の姿です。
この女王が卑弥呼様ですね。
彼女の名前が漢字伝来以前なのに漢字当て字表記なのは、もちろんこれが中国側の資料であるからです。
その、中国側の資料をルーツに、日本と言う国は自国を認識して日本文化なんてものを想定している訳ですね。
これを抜きに、日本側の資料を基に当時の記録を検証してみようとなると、卑弥呼様の治めていたという邪馬台国の場所さえいまだに判明していません。
そこから古事記までの間は空白です。
日本がシャーマニズムでドンドコドンドコの土人だった時代に、中国ではもう三国志の時代が終わっていました。明らかに日本は文明の後発国だと言っても差し付けないでしょう。
でね、文字が普及してからの平安期、王朝文化というのはみんな中国を模倣する物でした。
彼らは言ったこともない中国を自分たちの手本とし、中華文明にあこがれてそれをなぞってシルクロードに精神的に繋がることが王朝の役割でした。
これがつまり、日本文化が中華帝国の一属国としてスタートしているということですね。
保守派の人々が言うように、万世一系が日本のアイデンティティだというなら、そういうことです。
その万世一系は、中華帝国文化圏の一国としての万世一系です。
しかしその平安を終わらせたパラダイム・シフトはありました。
それが平氏の台頭となりますね。
彼等平家は当時の宋代中国との貿易で資本を蓄えて、やがて国体そのものを簒奪するに至りました。
それを当時の中央からすれば「異境」に等しい坂東(関東)の辺境から源氏の坂東武者たちが攻めて来て国体を転覆させます。
それによって、王朝の歴史は崩壊して幕府に本体を置いた日本の二重政権の歴史が始まります。
そういう意味で、この武家政権の成立こそが現在の日本文化の本当の意味でのスタートになっている、ということは可能であるかと思います。
ですので、外国人が印象する「ジャパン=サムライ」というのはこの意味ではあながち間違いではないのでしょう。
ユーラシア大陸を席巻した元朝による世界支配を鎌倉武士が撃退したことで、世界的な文明の共有に日本が影響を受けず、独自進化の道をたどったということも大きい。
言い方を変えれば、ここで平安までの中華帝国の一属国からの自立が実質成立した、と言って良いのではないでしょうか。
しかしこれもまた、江戸期でパラダイム・シフトが訪れて大きく変容します。
かつてのような狂える鎌倉武士の時代は室町後期までで終わり、刀狩りという象徴的な出来事で文化の人為的改変が行われます。
さらに300年後での明治維新によって近代化が起り、日本は国民の気風を除いてはまったく違う国に変わりました。
和魂洋才として近代化するということは、今度は西洋圏のアジアの属国として立国するということです。
そのためにキリスト教文化の国へと変遷を意図し、キリスト教の文化を前提とした法律が敷かれることとなりました。
初期のコンセプトとすれば和魂洋才でキリスト教のシステムの中で日本の文化を存続させようとしていたことがくみ取れますが、ここまで書いたようにそもが日本は文化の後進国、文化基盤の腰が極めて弱い。
これはつまり、人権意識が低くて文化母胎となる人々の生活が脆弱であったからといえましょう。
結果、大戦後に完全に日本はアメリカの属国となりました。
四方を海に囲まれ、その三方向を対立する世界的な軍事大国に囲まれるという世界的にも類を見ない特異点であったことが原因で、どうしてもアメリカの枢軸国対策前線拠点とされざるをえませんでした。
近海に浮かぶハワイ、フィリピンも同様の理由で同じ経緯をたどっています。
この欧米価値観の支配の中で、日本人の古来の価値観などという物はほぼ跡形もなく消え去っています。
私が平素書いている、アジアの土着的な性認識もしかり。
昨今政治で話題になっている日本人の性認識などというものは、この100年程度に洋化にあたってでっち上げられた輸入の物でしかありません。
一夫一婦制などは江戸時代には無かった。
天皇家を頂点としたイエ社会などという物は、近代以降の大戦時代での洋化政策として浮かび上がってきた物に他ならない。
なにせ天皇家自体が、一夫一妻となったのは明治天皇からだということです。
そんな、古来の歴史を意図的に塗り替えた「御一新」からのことを日本の伝統だなどと言っている「保守」の人たちの言葉が、いかに虚構であることか。
現実を無かったことにして嘘をでっち上げている歴史改ざん主義以外の何物でもない。
そういうことに踊らされないために、教養と言う物は大切です。