先日、老師が白鶴拳の「本当」を見せてくれてから、五祖拳の套路の中の鶴法の教授が始まっています。
これが、以前に書いたように明らかにフィリピン武術のマノマノ(徒手用法)の原点。
世の中で「東南アジア武術」系とされる動作、少なくともフィリピン武術の部分に関してはこれは間違いなく鶴法由来だと言ってよいかと思われます。
逆に言えば、ほんとうの鶴法の用法は東南アジアっぽいあれなんですね。
決して北派や空手のような動きではありません。
鶴法の名の通り、鶴翼手でさばいてそのまま入って鶴翼手で打つか、あるいは鶴嘴で突く。
蔡李佛では鶴頭拳で打つと言うのがありますが、本家鶴拳類ではそれはいまだ確認していません。
五祖拳は羅漢拳の要素があるので剛直な拳打も多用されるのですが、鶴法を用いた拳術ではやはり鶴形の手形を使うことが多いようです。
手刀でチョップや平手で叩くというのは鶴法で行うような接触状態の連打には非常に適していると思われます。
更にはそこに指先での刺突が加わる訳ですが、これは生理的な弱点への突きに加えて、穴所への点穴が含まれます。
これもまた鶴法名物ですね。
この段階になると、やはり経絡の知識があった方がよさげに思います。ないよりは。
老師に教わったのですが、北派の鉄砂掌は手の四つの面で砂を打ち、南派では砂を指先で突くということでした。
確かに私が昔に教わった北のやり方ではそのように四つの面で打つ感じでした。
映画で観るような、砂を突くと言うのはやはり南の物なのでしょう。この、鶴拳類での定番用法にかなっているという気がします。
子供の頃、空手をやっていた時代に、やはり私も砂を突いていました。
近所にあった砂や砂利を扱っていた現場に行ってバケツ一杯もらってきて、爪の間を真っ黒にしていたものです。
しかし、これ、目を悪くすると聴いて辞めてしまいました。
また後に、肝臓を悪くするとも聞きました。
更には「目を悪くするのは悪いことをして罰が当たったからだ、肝臓を悪くしたのは酒の飲みすぎだろう」などと言った古武術家もいましたが、この人は実力に問題があるので有名な方、これもいつもの放言だといまになって理解をしました。
なぜ砂を突くと目や肝臓が悪くなるかというのは、いまはもう私も理解したからなのです。
というのも、気功の考えで言うと、爪と言うのは木行の組織で肝臓の気が走る肝経に繋がっています。
そして肝経は五官で言うと目に気を送る脈となります。
ですので、爪を酷使してそこに流れている気を弱めると肝臓に負担をかけて弱らせて、結果視力も弱くするということなのでしょう。
このように、深掘りが出来ると言うのが中国武術の面白いところです。
東南アジア系武術のルーツなのだから、伝統性の高い中国武術よりもラフにやれる東南アジア系武術の方が誰にでもカジュアルに楽しめて面白い、ということは言えるかもしれません。
また、さらにそれを薄めてカジュアルで割ったようなアメリカ武術などはなおさらでしょう。
しかし、それらは掘れない。
掘るべき厚みや深さがない。
こうやってアジアの伝統的な身体観の具体であり、また仏教の行でもある中国武術は、圧倒的にその世界観の豊かさが違います。
確かに誰にでも簡単に理解が入って出来るようになるという物ではないでしょうが、学問として望むならこれ以上の物はないでしょう。