今回触れたいのは、人間とギリシャの古い神々との接し方についてです。
我々キリスト教的価値観に染められた現代人には想像しがたい神々との関係性が、トロイア戦争の物語を読むとあちこちに見られます。
男性の神様が人間の女性やニンフとまぐわうと言うことは有名なエピソードが沢山ありますが、前に書いたように女性側が神様に枕営業をかけて加護をせびり取るというパターンも紹介いたしました。
決して、男性神が一方的に優位であったと言う訳ではないらしく、神様は約束をすると破れないので交渉に迫られると弱かった、という説もあります。
これはインド神話にも共通したモチーフです。
アキレウスの母親が海の女神テティスであるということは繰り返し書いてきましたが、父親はテーレウスという人間です。
この二人の結婚がとても奇妙で、満月の晩に踊っていたテティスをテーレウスが追いかけて押し倒すと言う形で行われたと言います。
完全な略奪婚なのですが、人から女神の形でもこれが行われていたのですね。
既成事実が出来てしまったため、テティスは後日テーレウスとの間に婚礼をあげたと言うことですが、以後もテーレウスはテティスを女神として崇め尊んでいたと言います。
それなのに略奪婚、なのに崇拝。なんというか、実にフェティッシュです。
しかもこのテティス、決してしおらしやかな方ではなく、オリンポスでクーデターが起きてゼウスが捉えられた時には巨人族を乱入させてその隙に単身ゼウスを救い出すといったスパイ映画のような活躍をしています。
また、ギーターのお話で紹介した川の女神ガンガーとの同一視も神話学においてはされており、原初の女神の典型だとも伺えます。
恐ろしく、偉大でありながら人間に夜這いを掛けられて結婚に至ると言うような在り方がキリスト教的婚姻観以前にはありえたのではないかと憶測されます。
このようなフィジカルな存在としての神々は戦場でも直接攻撃を働きます。
軍神アレスはトロイア軍に参加してアカイア勢のディオメデスに敗れています。
アポロンもまたトロイア側についてアカイア軍に立て続けに弓矢を放って大量虐殺をするという直接攻撃をなしています。
アキレウスを射殺したのもアポロンだと言うバージョンの話にもあります。
また、アテナやアフロディーテと言った女神たちも戦場に干渉、自分のお気に入りの英雄や子供が敵にやられそうになると強風で飛ばして非難させたり、身体の周りに濃霧を発生させたりして隠してやったりとしています。ほとんどRPGの魔法のようです。
ちなみにアテナはトロイア陥落後、自分の神殿でアカイアの小アイアースによる凌辱が行われたためにギリシャ軍全体を呪い、帰りしなの彼らの艦隊を嵐で沈めて全壊させています。
かろうじてそれを生き延びて帰国した英雄たちも、やはり神の呪いによって帰国後に謀殺されたりしていて、初めにゼウス神が計画したように、神々の恐ろしさを思い知らせ、半神たちを間引きするという目的が達成されています。
この神々と人について、次回はまた別のタイプの接触を書いてゆきましょう
つづく