前回は古代ギリシャにおける物理的な意味での神との接触について触れました。
今回は別の面での神々との繋がりについてお話します。
トロイアの王女、カサンドラはアポロンに見初められました。
彼女を口説きたいアポロンは性交の代わりに予言の力を与えると約束し、それを前払いしました。
しかし、土壇場でカサンドラは彼を拒絶、やらずぶったくりで予言の力だけをせしめました。
これに怒ったアポロンは(当たり前だ!)、神として一度した約束は反故に出来ないと言うかせの下、彼女の予言は誰も信じないという呪いをかけました。
有名な、カサンドラ症候群の由来です。
精神病や人格障害の人に関する話を他人に話しても、中々信じてもらえないという現象を表す心理学上の言葉です。
呪いをかけた後も、アポロンは約束通りにカサンドラに毎回予言を吹き込んでいたようです。実にマメで誠実なことです。そりゃあカサンドラのしょうもない裏切りを許せないことでしょう。
このように、神々というのは脳内に声を吹き込んでくる存在として認識されていたと言う描写がトロイア戦争には散見されます。
古代ギリシャ人は右脳と左脳が繋がっておらず、時々繋がった時にそれまでは思っても居なかったようなことが閃くので、これが神との接触だったと言う説を唱える先生が居ます。
トロイア戦争に観られる神の在り方から察するに実に納得がいきます。
ギリシャ軍の豪傑、大アイアースはその武勇で大いに勲をあげたにも関わらず、先陣で狂気を発して憤死していますが、これは彼が陣営内での権力争いでオデュッセウスを殺そうとしたため、オデュッセウスを守ろうとしたアテナが彼に狂気を投げ込んだことが原因だとされています。
同じ狂気はヘラクレスも発しており、古代ギリシャ人にとってはこのような乱心を「神々の仕業だ」とすることがあったようなのです。
シャーマニズムなどに置ける入神状態はまさにそれに近いかもしれません。
そもそもがトロイア戦争の発端はトロイアの王子パリスに愛の女神アフロディーテが「世界一の美女であるスパルタ王妃へレンはお前の物だ」と吹き込んだからだと言われています。
このように、神が思いもよらなかった感情や欲求を吹き込むと古代ギリシャ人は考えていたようなのですが、一般にこれ、日本では「魔が差した」って言わないでしょうか。
神じゃなくて魔ですよね。
もっと言うと、キリスト教的考えで言うなら「悪魔に憑りつかれた」です。
ここからも、キリスト教的一神教においては自分たちの神以外の物が精神に影響することは全て悪魔の仕業だと言う認識に、上書きしたという解釈がなりたちましょう。
それまでは人間の気まぐれ、衝動、自由な感性は神の与えた物だったというのに。
神が自然の力そのものだった時代から、政治的道具に移行したというキャンベル教授の考えも頷けるところです。
もちろん、本来アジアではキリスト教的な考えはありませんでした。
神々は時に小さく沢山いる存在で、人間の中を出入りしていました。
私たちはそのようにして、神様や自然と当たり前につながっておおらかな生命を生きていました。
つまり、キャンベル教授が言うように、神々は私たちの中に居た。
古い神話に接すると、我々がいかに白人優位主義のキリスト教思想に染め上げられてしまっているかを、否が応でも痛感させられます。
一体いつからそのようになってしまったのかと思いを馳せる上で、非常に感慨深いエピソードがトロイア戦争の最後には付いています。
トロイア王国の公子の一人であった英雄、アイネイアースはアフロディーテの息子であったため、トロイ陥落後に母神に守られて脱出の手引きを受けました。
この時、アイネイアースは家族を連れて炎上する都から避難をしていたのですが、途中妻のクレウーサが突然大地に呑み込まれてしまいます。
実はクレウーサは大地の女神キュベレの娘だったので、こちらの母神が自分の元に連れて行ったのでした。この後、クレウーサはキュベレに仕える巫女となったと言いますから、やはりある種の封神が行われたと言ってよいでしょう。
残されたアイネイアースはその後、イタリア半島にまで避難して、そこで現地の土地神、ラティーヌスの娘をめとって婿入りし、ローマの都を拓いたと言われています。
そう、ローマの祖はトロイの王子アイネイアースなんですよ。
で、このローマがレパントからキリスト教を引き取って国教としてから、白人優位主義は生まれたんですね。
もう、キリスト教もローマの祖もアジアから来てるんですよ。
この白人優位主義と言う物が、まったく根も葉もない物だと言うことがよくよく分かると思われます。
このようにしてその時々の政治的判断で捏造されて押し付けられてきた白人優位主義キリスト教が、一体どれだけの信ぴょう性を持って扱うべき物であろうと言えましょうか。
いまいちどアジアの感性に目を向けて、生き方を見直してみることを検討されてはいかがですか?