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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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関節を消す 後

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 前回は前置きとして、肉体の訓練法には意味があるし、その訓練法の秘伝が古い武術の秘伝でもあるということをかきました。

 私は元々格闘技をして身体を作っていた人間でしたが、後にはその肉体が土台となって武術でも役立っています(古傷が厄介にもなっているのですが)。

 蔡李佛拳の開祖、陳享先生は金鍾鐔の功があったと言います。

 これは身体を鉄の塊のように強くするという功なのですが、内功を持って行う物です。

 いわば整勁の類であり、相手を打つ時も同じ力を使って発勁とします。

 私の身体も、いまはこの遣い方で機能するようになっています。

 前回に書いた受動的な能力が、能動的な能力に転化されたのです。

 もちろん、受ける方にも使えるので、一定訓練を積んだ人であるほど、私を打つと威力が跳ね返って自分を傷めます。これは骨が硬いとかそういう部品の問題ではなく、働いているシステムがそういう功だからなのです。

 私はジムにはいかないしウェイト・トレーニングも辞めましたが、その後も伝統的な練功で身体は大きくなり続けていて、最近身体検査で測ったら90キロを超えていました。

 筋肉体重は62、3ほどで、平均的な成人男性の全体重くらい、彼らの筋肉体重のおよそ三倍ほどになります。

 いまどきの武術愛好家に伝えたいのは、これは現代的なトレーニングをしなくても伝統武術の練功で付く量だということです。

 ちなみに、格闘技時代の体重は59~62・4キロだったので、明らかに武術に移行後に筋肉量が増えています。

 鍼灸の先生は私の身体を、体格の割には骨が細いと言われましたが、これは成人して骨格が完成してから肉が増えたからでしょう。

 このようにしてついた筋肉で動くと、関節の動きが消えてきます。

 皆さんは猫やウサギのような動物が疾走するのを観た時に、どこがどのように動いているのか把握できなかったという経験はないでしょうか。

 彼らは人間とは別のOSで動いているために、人間の動きと照らし合わせると動作が掴みにくい。

 逆にだからこそ、時々人間ぽく見える動作をすると、とてもユーモラスでかわいらしく見える訳です。

 この動作の違いに注目したうえで、前回リンクしたさくらちゃんの動画を見ると、彼女の動きは極めて骨が立っている(目立つ)ことに気付かされると思います。

 これが人間の動きなんですね。

 二足歩行をして手足を分業化した結果、手も足も動物の四肢とは違う物にと進化しました。

 中国武術ではこれとは違う、動物の動きを獲得することを前提とします。

 先日、雨の降る午後に家路を走っていたら、信号待ちでロードワーク中のボクサーを目撃しました。

 雨の中、フーディーを羽織って走り込みをしており、信号待ちでも足を止めることなくその場でスキップをしながらシャドー・ボクシングにいそしんでいます。

 その手の動きが、実に精度の高い人間の動きです。

 骨が立っていて、肘関節が屈伸している。

 人間の格闘技の動きです。

 それを我々はしないのですね。

 中国武術の中で最も人間の動きをするのは最近流行りの防身術なのですが、これはだからこそ防身術なのです。

 関節の屈伸を主体としていて、肉体の作り変えを必要としない。

 動物還りをするような異様な練功は求めないのですね。

 その次に人間にまだ近い動きなのは猴拳類だと教わったことがあります。

 通背拳類などの猿にルーツがあるという武術です。

 熊の姿を模したという白眉拳や八極拳もまだ比較的人間の姿が垣間見えるかもしれません。

 クマと言う言葉で表現されるのは大きな猴という意図だからです。

 しかしもう、それはあくまで表層だけで、実際はぬるぬるとしていて捉えがたく、何をしているのかよく分からないという印象を受けることが多いかと思われます。

 その理由の一つに、関節の動きが消えているから、という物が大きく影響していると思われます。

 動物の動きでは、関節の動きで骨が目立たないのですね。

 もう一度さくらちゃんに戻りますが、人間は骨を体内の杖として活用しています。

 ですので骨の存在が目立つ。

 しかし、中国武術では関節の動きは消えてゆきます。

 ですので、目の前で動かれても一瞬何が起きたのかを捉えづらい。そのため防御反応が起こりづらく、結構びっくりさせられます。 

 これを逆算すると、ある程度までは、その人の動きをみれば、我々はその人が武術としてどの程度出来ているのか、出来ていないのかが分かってしまう、ということです。

 お里が知れるではないですが、どれだけ格好の良い動きをしていても、身体能力が高くても、それが武術の動きであるのか否かは見るとだいたいわかるのです。


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