この度のトロイア戦争研究の止めに、ハリウッド映画の「TROY」を見直しました。
2000年代初頭の作品で、ブラッド・ピットが主演だったのを覚えていらっしゃるかたも多いのではないでしょうか。
これ、面白いのはブラピが主役であるということが引きになっている映画なのですが、彼が演じるのはアキレスなんですよね。
アキレス自体は、戦争の起因にも結末にも関係していない、途中参戦途中退場のキャラクターです。
ギリシャ神話の英雄たちの一人として物凄く強かったので有名ですが、別に何か歴史的なことをした人物ではないんですよね。
この歴史的なことという言葉をキーワードにしてもう一度振り返ると、この映画自体は神話の要素がすべてはぎ取られています。
神話の中のトロイア戦争ではなくて、史劇としてのトロイア戦争が描かれています。
ですので、アキレスも不死の半神ではありません。
ただのエリート部隊を率いる下士官の一人として描かれます。
当時の批評としては「こんなの神話でもないし史実に忠実でもない中途半端作品だ」という物があったそうですが、いやいやそれはお門違い。シェクスピア的な物だと受け止めれば良いだけのことでしょう。
トロイア戦争という環境の中での個人間の葛藤や懊悩が描かれる訳ですが、この戦争に対する解釈もちょっと面白いところがありました。
トロイ側の事情としては、パリス王子とスパルタのヘレンの恋愛の物語として描かれているのですね。
ですので、パリス王子の妻子の存在は抹消されており、ヘレンも夫のメラナイデスの処には政略結婚で十代のうちに連れ去られたという部分が強調されていて、不倫譚として感情移入がしやすく出来ています。
この不倫による問題に関して、パリス王子の兄であるヘクトル王子が兄弟の情愛を捨て去りがたく大戦に至ります。
初めは弟を切り捨ててヘレンをスパルタに返して国の大事を取ろうとするのですが、親愛の情代えがたく過ちを犯して彼を守ってしまう。
この、義と情の揺れ動きの繰り返しがトロイア側の物語であり、その葛藤はヘクトルというトロイア最大の英雄個人の葛藤として描かれます。
彼に対する描写として面白いのが「東方一の英雄だ」と語られていることです。
つまり、この映画では、ローマ以降のキリスト教的白人優位主義史観ではなく、トロイはアジアだという認識があったのですね。
つづく