先日、ホグワーツの授業で下腿に鍼を刺し、そこに電気を流すという実験を行いました。
下腿と言えば中国武術で重視されるところです。私からするとそこについて学べる好い機会でした。
昔、武術の先生から聞いた話なのですが、中国では腕自慢をするときにふくらはぎを叩いて誇示するのだそうです。
ポパイやブルートが上腕二頭筋の力こぶを叩いて強さを表現するのと同じですね。
この、中国武術におけるふくらはぎは西洋文化圏における力こぶだ、というのは昔のカンフー映画でも見ることができます。
チンピラをやっつけた主人公が倒れた相手を見下して「へっ」と鼻を鳴らしながら椅子に座って足を組み、自分のふくらはぎをパンパンと叩いて見せる、というシーンに記憶がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ふくらはぎではないですが、お相撲でもまわしをつけてお尻を出すというのは、下半身の力強い造形を見せているのだと聞いたことがあります。
さてこのふくらはぎ、アウター・マッスルである腓腹筋と、インナー・マッスルであるヒラメ筋が重なって構成されています。
よく、中国武術など東洋の身体文化ではインナー・マッスルが大切だなどと言います。
これはいったいどういうことでしょうか。
実習で筋肉のさわり分けをしたのですが、サッカーをしているというクラスメイトはふくらはぎが割れていて非常にイケメンな足をしています。
さもスポーツマンと言う感じで実に様子がよろしい。
しかし、私たちはこういう足はしていません。
ずんぐりとしていてなにやら太い。
これが、おそらくアウターの腓腹筋主体の発達とインナーのヒラメ筋主体の発達の違いなのですね。
インナー・マッスルは俗に抗重力筋であると言われます。
これは、瞬発や屈伸を繰り返しパワフルに行うのではなく、重力のかかる中で骨格の維持を支える力を司る筋肉です。
この抗重力の力を、専門用語でトーヌスと言います。
このトーヌスは無意識の間に常に働いていて、人間の姿勢を支えています。
トーヌスが抜けると泥のように芯が抜けて倒れてしまう。
そういうことなのです。
この、屈伸を司るのではなく、地味に常に姿勢を支える能力。
これ、まさに中国武術の力です。
瞬発や屈伸ではない、ただ立つ力。
站椿で養われる力であり、整勁です。
動く力ではなく、動かない力。暗勁、陰の力です。
表の西洋体育ではなく、裏や芯に拘るアジアの秘伝の身体文化の力ですね。
脱力を強調すれば、西洋的な力の束縛からは逃れえます。
しかし、そこからさらに踏み込むには至らない。
その先の深みが、この部分に潜んでいる訳です。