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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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放鬆と中国武術の基本功

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 さて、このところ、中国武術の放鬆とは脱力ではなくて筋肉の弛緩であろう、ということテーマに、生理学的に改題をしてきました。

 そして、これらはすでに本物の伝統中国武術の中には織り込み済みである! ということもまた書いてきました。

 日本武術の観点からは、80年代から続く長い脱力という誤解と、そこから生まれた脱力信仰があるために、これは本当に日本人には理解が難しいところです。

 というのも、実際に日本の柔術なんかにはホントに力を抜いた(トーヌスを弱めて倒れ込む)ことを活用した術があるからです。

 あれと中国武術の放鬆は違うのよ。

 両者に無理やりに共通性を見つけて統一理論で解消しようとしてきた歴史が誤解の歴史そのものだったと言ってよいでしょう。

 日本武術は生のままの身体で行うので脱力技法が重視されるのは納得なのですが、中国武術はひたすら基本功で身体をその門派の身体に作り替えるんですよ。

 有名な、ひたすら立つという站椿であるとか、最後には逆立ちにまで及ぶさまざまな種類の腕立て伏せ、鉄板橋にいろんな物で身体を叩いたり身体で物を叩いたり。

 それだけやって鍛え上げた身体を使わずに、ただただ脱力、ってことは無いんですよ。

 その一例として、今回たまには実際の技術について一つ書いてみます。

 蔡李佛拳では、まず最初に馬を作ります。

 下半身ですね。例の、立ったままで身体を鍛えたりその上に組体操のように人を乗せて立ったりする訳です。

 そして、立ったままで移動するということを学びます。

 普通に歩くとなると、重心が移動したり立っているときとは違うモードで移動をすることになります。

 それをせずに、立っていることの連続で一歩づつ移動をすると言うことをします。

 この間に、脱力は存在しないんですね。

 ひたすら下半身に負荷をかけまくる。

 では上半身は何をするのかと言うと、放鬆を学ぶ基本功を行うのです。

 ひたすら腕を回す練功であったり、あるいは腕を振って相手を打つ練習だったりするのですが、要訣は同じです。ひたすら、もっとも遠い軌道を描けるように腕を伸ばすこと。

 これ、前の生理学の記事で書いたことを読んでらっしゃる方ならお分かりだと思うのですが、筋肉を弛緩させると言うことは筋細胞の中にあるアクチンという物を外側に移動させることです。

 そうすることで筋肉が伸びる訳です。

 とはいえ、実際には一発でいきなり筋繊維を弛緩させた状態で拳を打つということは難しい。

 なぜなら初動に力が入るからです。

 力が入ると言うのは筋繊維が収縮すると言うことです。つまり腕の筋肉は縮んでいます。

 初動で縮んで、打撃到達時までにアクチンを最大限遠くまで進展させて筋弛緩状態に持ってゆくと言うのは、非常にあわただしくて難しい。

 ではどうするか。

 そのために基本功でその要領を身体に覚えさせるのです。

 要するに放鬆での打撃を繰り返し行って体にそれを染み着けさせる。

 どうするのかというと、ここまで何度も書いてきているように、筋肉の弛緩とは筋繊維が伸びた状態のことです。

 ですので、腕を伸ばしてグルグル回します。

 こうしていると、遠心力が働いてきますね。

 つまり、腕の筋収縮をしなくても軌道が確立されます。

 地球の力、天地自然のタオの理を用いている次第です。

 この腕グルグルでどんどん放鬆した状態、筋収縮を可能な限り伴わない腕の振り方を、フィードバックさせながら追求させていきます。

 こうして、身体面での要領の獲得と技術面での操作感を自らと自然の力に教わって体得する訳です。

 さて、筋弛緩のさせ方についてはこのようなものなのですが、では、筋肉が弛緩していると何がいいの? ということになってきます。

 ここで以前も書いていたトーヌスです。

 姿勢を維持するための筋肉の収縮です。

 これを抜いている訳ですね。上記の方法で。

 こうなると、つまり腕は筋肉で支えられていない訳です。

 無重力に近い。

 物質がもっとも重さを発揮できるのは、当然支えがない状態の時ですね。古武術の脱力と同じです。

 つまり、腕だけは柔術の全身脱力のように力を抜いておき、それ以外の土台、軸となる部分はきちんと鍛え上げた能力で支えている訳です。

 堅牢な土台と自重をフル活用した腕という両立がこれで可能となります。

 この、重さを活用した威力の出し方を、重勁と言います。

 これが蔡李佛の入門時の用勁です。

 これは第一段階であって、当然これとはまったく違う次元の勁を次の段階で体得することになります。

 その勁を入れるのに、すでに放鬆がされている腕はとても通りが良い器となります。

 と、言ったように、正統な中国武術の構造は非常に理にかなっていて、洗練されたシステムとなっています。

 断片を継ぎ合わせて創作した流派では、その段階には至れない。


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