前回はワイスピシリーズとキン肉マンについて書きました。
キン肉マンと言うのは中国的な、法話の世界に影響を受けているということを書きました。
もっと言うと、これは人類に普遍的な神話の構造であるということでもあります。
前回の最後にキン肉マンにおける食人について書きましたけれども、前にも何度か書いているように、この食人と再生、闘争と和解というのは典型的な神話的モチーフです。
死んだものが蘇るという消費と再生産のモチーフは人類と食物の関係全てを意味しています。
だから、人間がいつも食べている牛やクジラが神となる訳です。
また、闘争と和解というのは民族や文化の統合と拡張を意味しています。
戦争して領土が拡張されて、文化と人種が配偶されてゆくのだから当然ですね。
対立した物は必ずファミリーになるのです。
ローマででもモンゴルででも同じことです。
この辺りのことは、私たち島国の歴史で生きてきた人間はつい見落としてしまうところかもしれません。
大英帝国でもアメリカ合衆国でも、身の回りのアイルランドやフランスやスペインの領土を簒奪して吸収してきた歴史によってなりたっています。
ワイスピにおいては、この支配と植民地化ということが非常に重要なモチーフになっています。
主人公のドミニク(ドム)は、恐らくはドミニカ共和国出身の人だろう、ということに設定されていて、合衆国のみならず南米のスペイン語圏、およびスペイン語と会話が可能なブラジルにおいて自由自在に活躍が出来る英雄です。
これ、前の記事にも書いたドウェイン・ジョンソンがザ・ロックだった時代に果たしていた役割なんですよ。
現役時代のロックはロック様、ピープルズ・チャンピオンと呼ばれていました。
それまでの白人種の添え物だった有色人種のプロレスラーとは違い、実際に最も熱心にプロレスに熱狂している有色人種層みんなを代表する存在だったためです。
彼の祖父はハワイアンであり、彼の父親は黒人種です。
そのため、どんな人種にも見える要望をしており、黒人種、ヒスパニックを含めた多くのファンを獲得して、彼らの代表としてカトリックやマフィアのギミックを持つ白人選手たちを倒していました。
その構造を、ドミニクというキャラクターはまるまるいただいた訳ですね。
一作目では、相棒であり潜入捜査官でもある白人種のキャラクターを主人公に、ドミニクはカリスマ的なギャング団のリーダーとして登場しました。
ライバルとなるのは、裕福なアジア系のギャング団です。
元々、そういうアンダーグラウンドのトライヴ文化を潜入して覗き見る、という刺激を楽しむ映画だったのですね。
そこからシリーズ化されるなかで、黒人種の相棒たち、韓国系のバディ、ユダヤ人の美女、ラティーナの恋人と言ったいわゆる「ファミリー」が増えてきました。
そしてドゥエイン・ジョンソンが参入してさらにこの、色々なトライヴの仲間たち、はラテンカルチャーを底面として結束してゆきます。
そこに共通する物はなんでしょうか。
おそらくは、カトリックなんですね。
もちろん、ユダヤ人はユダヤ教です。
しかし、そこには古典の聖書宗教という共通できる部分があります。
少なくともプロテスタントではありません。
つまり、聖書の神話的部分において繋がれる訳です。
そして、最後にイギリス人のショウ兄弟もファミリーに入りました。
映画解説者のてらさわホークさんいう処の「ショウ・ブラザース」です。
これ、裏は取れていないのですが、恐らくはこのショウ一家、英国籍の中でもアイルランド系とかのカトリックの人たちなのではないでしょうか。
怪盗であるママを中心としたファミリー形成が、あまりにもマフィア的、母系信仰的に見えます。
そう。カトリックの特徴は、本来キリスト教の正統が認めていないと宣言しているマリア信仰にあります。
というと、怒られるかもしれませんが、私はかつて聞いたその説を支持しています。
象徴とされる、幼子とマリアの母子像(ピエタ)。
これは、キャンベル教授が神話学で言う処の、未だ宗教化する以前の、レパント地域に広まっていた女神信仰の名残だと言います。
しかし、実際にはワイスピのファミリーを支える家長は男児である長男のドム。
ですが。
今回、完結編ということでいきなりドムの祖母が登場しました。
現状、別に活躍はしていません。
しかし、ファミリーの最上位者、ドムに権威を譲渡した背景として登場して「ファミリア」に関する教示を彼に与えるのです。
これ、いままでシリーズを支えてきた思想のバックがようやく明示されたと解釈しても良いことでしょう。
つづく