いまや世界最大のフランチャイズとなった、ワイルド・スピード・シリーズの完結編前編が公開されました。
とはいえ、スピンオフ・シリーズの制作も発表されており、プロデューサーと主役を兼任するヴィン・ディーゼルがビジネスのスタイルとして一線から退く、という程度の意味であるようです。
しかし、思えばサーフィン潜入捜査官映画のハート・ブルーを途中の嫌な感じのところをなくして全部ハッピーにまとめた頭悪めの映画が、その頭の悪さをどんどん長所として20年もかけて成長して、その正史(カノン)が完結するというのは一つの歴史だと言って良いのでしょう。
毎回、最強の敵として出てきたキャラクターが次の作品では味方になっていたり死んだと思っていた仲間が実は生きていたと言って再登場したりと、キン肉マンかと突っ込まれて来たこの作品ですが、これ、実は的を射た見立てなのですよ(男塾かと言ってる人たちは外してる。そもそもあれはそういう物のパロディとして書いてたわけだから。センスない)。
キン肉マンのルーツはというと、もちろん特撮ヒーローものとプロレスなのですが、その要素の中にかなり初期からアメコミが入っているのですね。
絵のタッチもそうですし、世界観もマーベル・コミックなどからかなり影響を受けているのです。
また、超人の肉体に関してはアメリカのボディ・ビルダーやプロレスラーの肉体を参考に描いています。
キン肉マンに「四十八の殺人技」を教えた師匠、プリンス・カメハメを王座から追いやった超人レスラーに、ジェシー・メイビアというキャラクターが居ますが、この人のモデルとなったのが、実在のハワイ系プロレスラー、ロッキー・メイビアです。
お気づきになりますでしょうか。
初代ロックです。
ザ・ロック、ロッキー・メイビア・JRのお父さんですね。
俳優としてワイルド・スピードに出演しているドウェイン・ジョンソンのことです。
そう。繋がってるんですよ。
そして、そのキン肉マンのストーリが影響を受けた作品は数あるのですが、その中の一つが香港のショウ・ブラザースのカンフー映画です。
これについては単行本のコメントでも書いていますし、キン肉マンのスピンオフである「闘将! ラーメンマン」を読めばまるまる話がショウブラ武侠カンフー映画であることがお分かりいただけるかと思います。
でもって、このショウブラカンフー映画の空中殺法や身体がバラバラになったり光線が出たりする特撮が、日本の特撮変身物に影響を与えました。
ここでキン肉マンの初期特撮路線にまた繋がってくる訳です。
ワイルド・スピードのシリーズにおいて「あんな敵対してた奴が味方になるの?」という意見がありますが、そんなの「闘将! ラーメンマン」に比べたらなんでもない。
げらげら笑いながら子供を虐殺していた悪者が味方になって出てきて、子供の頃は読んでて脳みそがどうにかなるかと思った物です。
しかし、仏教の説話を描いたショウブラカンフー映画にさかのぼって見れば、それらは鬼子母神の故事のような物、なるほどそういうことかと納得もする次第です。
つまり、中華思想というのがそこには広がっている。
なにせ、日本でもっとも有名な中国の仏教小説、西遊記の主人公である三蔵法師は沙悟浄と言う弟子を連れて旅をしていますが、沙悟浄のぶら下げている骸骨、あれそこまでの前世の三蔵法師の物です。
何度生まれ変わっても三蔵法師はそのたびに沙悟浄に食われて死んでいたんですけれど、最終的にはその業を乗り越えて沙悟浄を弟子にし、自分を食った業を負っている弟子を旅の修行で救ってやろうという、そういうことが語られているのですね。
「え、そいつ味方になっちゃうの?」の中でも恐らく最大レベルの物でしょう。
さすがワイルド・スピード・シリーズでも自分を食い殺してきたやつを味方にはしていない。
まぁ、キン肉マンの中ではブロッケンJRが自分の父親を殺してラーメンにして食べたラーメンマンの弟子になっていましたが。
この感性は、西遊記とか水滸伝を経ないと出てこない物ですよ。
つづく