このところ、ステロイドやドーピングなど、アスリートとドーピングに関する記事をしばしば書いてきました。
今回はそのための下調べの段階で目にしたことに由来するお話をします。
ドーピングにうるさい関係者やいまはジム経営に専念しているかつてのボディ・ビル選手らの話をいくつも見聞してゆくうちに、一流のビルダーはほぼ全員ステロイド・ユーザーであるということが分かってきました。
現在配信をしているあの人もあの先生もそうだったと言いますし、これらはただの噂ではなくそれを裏付ける記事や動画なども目にすることが出来ました。
つまり、初めからステロイド=悪という固定概念がある世界ではないということが見えてきました。
そして、よりその辺りの認識に緩い格闘技の世界でもまた、あの選手もこの選手もという形でドーピングをしている選手が分かってきました。
しかし。
ある有名なボディ・ビル選手に関してだけは言及がされていません。
そこまでの見聞を通した目で見れば、その人の身体は明らかに過剰で、確実にユーザーであるはずなのですが、なぜか誰もがその名を口にしません。
その人は日本で最も名前を知られた人物で、試合前の減量中に餓死したことで知られている伝説の存在です。
おそらく、日本人にボディ・ビルという物の存在、そしてボディ・ビルダーのインパクトを知らしめたのはこの選手であることは間違いないでしょう。
死亡時のエピソードで、あまりにも食事を絞り過ぎたがために病院に運び込まれて、医者が点滴を打とうとするもそれを、拒否、家族がせめて飴玉一つだけでも食べてくれと懇願したのにそれも拒絶したというエピソードが知られています。
死に至るまでのこのストイックさが、ある意味でビルダーたちのレジェンドになっていることはよくわかります。
その神格化のためか、彼がステロイド・ユーザーだったということを語る人は目にすることが出来ませんでした。
しかし、通称「筋トレ界の迷惑系ユーチューバー」と呼ばれる炎上目的の配信者が、いまは一線を退いているトレーナーにインタビューをする企画でとうとう彼の名前を出して質問をしました。
それに対して年上のトレーナーが答えたのが、恐らくは彼が使っていたのはステロイドではなくて、インスリンなのではないか、ということでした。
インスリンについて聴いたことのある人は多いことかと思います。
おそらくは糖尿病患者が自分で注射することで知られているのではないでしょうか。
これは元々、膵臓で分泌されているホルモンです。
膵臓には、α、β、δの細胞があり、α細胞で分泌されるのがグルカゴンというホルモン、βから分泌されるのがインスリンです。
δ細胞からはソマトスタチンというホルモンが分泌されます。
ソマトスタチンは、前述二つのホルモン分泌を抑制する効果があります。
グルカゴンとインスリンの機能は拮抗していて、グルカゴンは体内に蓄積されているグリコーゲンを分解してグルコースを血中に放つ役割を持っています。
インスリンは血中にある有利グルコースを細胞内に吸収させる機能があります。
グルコースとはつまり血糖ですね。グルカゴンは血糖値を上げて、インスリンは血糖値を下げる役割があるということです。
糖尿病は、血中の糖分が細胞に吸収されることなく体内に排出されてしまう病気です。その名の通り尿から糖が出てしまう。
ですので重度の糖尿病患者は体内に糖が取りこめず、ガリガリにやせ細っていってしまいます。
注射によるインスリンの投与によって血中糖分は細胞に取りこまれて、この状態を避けることができます。
伝説のボディビルダーによるインスリン・ドーピング疑惑なのですが、これはつまり、血中にある糖分をすべて細胞内に取りこもうということがあったのではないかといわれていました。
そうすると、飴玉一つさえ外部から取り入れずに、すでに体内にある栄養素をフル活用することで限界まで身体を絞り、かつ細胞に栄養を届けようということができるのではないのかというのですが……個人的には、それだけではあの極端に肥大した筋肉の説明がつかない気もしています。
いずれにせよ、膵臓にはグルカゴン、インスリンを抑制するためのソマトスタチンという物があるくらい、ホルモンには分泌と抑制の調整が必要で、このバランスが崩れると大変です。
できれば皆さんはやたらに手を出さない人生を送られますように。