何かがおかしいと気が付いてしまったガイ・モンターグは、それまでは何やら深いことを言って自分を洗脳していた上役の署長が、実は禁断とされている本を読んでいるのではないかと気になりだします。
そんな中、また焚書の現場に行ったところ、所有者の夫人が自らも本と一緒に炎に飲み込まれるという事件に遭遇します。
署内のルールでは、違反者が処罰前に死亡したことに問題はないようなのですが、この事件が追い打ちとなってモンターグは現場から一冊本を盗んで家に持ち帰ってしまいます。
実は以前から彼は同じことを現場でしており、読んだことは無かった物に家には数冊の蔵書がありました。
挙動不審な彼に、すべてを見透かしているような署長は「あまり考えるな、誰もが一度は通る道だ。俺も実は本を読んだことがある。中身は何もなかった。ただもっともらしいことが書いてあるだけで現実じゃない。そこを通って無意味だと気付いて立派な大人になるんだ」と諭します。
ガイ・モンターグは意を決して妻と一緒に本を読んでみることにします。
しかし、妻には一切効果がありません。
ですがガイ・モンターグその人にはそうではありませんでした。
ここで彼は、妻には何にも中身がなく、初めから通じ合うところなど無かったことをようやく受け入れます。
次に署から出動した時、その先は自分の家でした。
妻が通報していたのです。
ここで所長がガイ・モンターグに火炎放射器を手渡して、自ら家ごと焼いて責任を取るように迫ります。
この時のセリフが大変に印象的でした。
「まったくたまげるな。近頃はみんな、自分の身には何も起こらないと思っている。そう思い込んでいる。他人は死んでも自分は無事。何の因果関係も、なんの責任も無いとな。ところがあるんだ。だがそんな話はやめておこう、な? 因果関係が分かった時には手遅れだ。そうだろ、モンターグ?」
完全に若本規夫です。
うっかり訳者の人が当て書きで翻訳しちゃったんじゃないかと疑わざるを得ない名訳です。
追いつめられたモンターグは錯乱して(ほとんど作中ずっと彼は錯乱しているように感じられる)、火炎放射器で署長を焼き殺し、同僚たちも気絶させてその場から逃走してしまいます。
逃げ延びながら彼は、署長は恐らく、すべてを理解していて、本を読んでそこに共感を感じながらも、現実世界においてはすでに有効性を失っていると絶望して、自ら自分に焼き殺されることを選んだのではないかと推測します。
お尋ね者となった彼は元教授らからなる読書家たちのシークレット・サークルと接触を持ち、なぜ世界が本を禁じたのかを知ることになります。
それは、別々のことを繋げて考えられるような能力を持たれると権力側からは不便であるからということでした。
そうさせないように、政府は本を禁じ、スポーツを普及させて、人々が野球やボーリングに熱中していれば何も考えずにどんどんバカになってゆくとして愚民化政策を推し進めました。
その結果が、モンターグの妻のような人々が溢れるようになった現状でた。
SNS中毒、スポーツを利用した愚民化政策、そして歴史改竄主義と、まさにいまこの国で起きていることと非常に重なります。
いましも、SNS上ではバカ者たちが、あれほど沢山の裁判資料がある関東大震災時の虐殺に関して、そんなことは無かったと言う歴史改竄を行っています。
愚民化政策の結晶のような人間が溢れかえっている。
つづく