実際、南部の方では先に述べた黄飛鴻先生や太平天国の陳享先生など、組織的な軍事行動で活躍した武術家が多い。
宮宝林がその規模に目を付けるのは当然のことでしょう。
しかし、宮宝森はその大望を抱きながらも、武林の恨恩が元で殺害されてしまいます。
武侠小説を読んでいたり、中国人老師のインタビューを見ていると、北の人たちは情に厚くて大人風で、南の人は商人だから小はしが利いて利に聡いというようなことを目にします。
宮宝林もやはり、その北方の義理人情の世界の風土のために大望を展開しきれませんでした。
そして、その後は娘が継ぎます。
この娘が本作のヒロイン、宮若梅です。
もう一人の実在武術家をモチーフにしたキャラクターは、一線天と呼ばれる男性です。
彼のモデルは、八極門最大の偉人、李書文の弟子である劉雲樵大師です。
李書文先生は中華武士会の一員であり、国術館の副館長であった李景林将軍の元に居た武術家の一人でした。
李書文先生の最初の弟子である霍殿閣師は、日本軍の傀儡政権である満州国の皇帝にでっち上げられた愛新覚羅溥儀の師父でした。
溥儀とそのボディーガード部隊に李氏の八極拳を教えていた。
かたやで李書文師自体は中華武士会に所属して中華民族のための活動をしていたので、師弟の間に齟齬が生じている辺りが、時代の混乱を見せています。
また、国術館の計画に関しても、李氏八極拳からは弟子が参加しているのですが、そこで行われていた八極拳のプログラムに関して李師は大いに遺憾であったという話が残っています。
私の老師はこの国術館系武術の継承者でもあるので、私にもうーーーーっすら縁のないではない話です。
一方、最後の弟子である劉雲樵師は国民党の工作員となり、秘密工作や暗殺に参加するようになりました。
映画の中の一線天は、そういった殺し合いの日々が嫌になって逃避行に出たいわば抜け忍的逃亡者として描かれています。
これら歴史的背景のある二人に関して、まったくそれが無いイップ・マン。
この対比がこの映画なんですね。
つづく