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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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あらためて300を 2

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 あの、スパルタ軍の脳筋特攻大作戦を描いた300は、劇場で観た時から私のお気に入りの作品です。

 大画面で見ると、ヴィジュアル・コミックをそのまま映像化した細部の描写がしっかり見えたのですが、家庭のテレビではほとんど見れなかったことが残念なのですが、今回の大画面かつブルーレイではだいぶ細部を確認できました。

 ご存じの通り、300は実在したスパルタ兵という気の狂った、古代ギリシャ版葉隠れ武士道集団を描いた作品です。

 戦って死ぬために出撃した彼らが、当時世界最大の帝国を築いていたアルタクセルクセス二世の率いる世界各地からの大軍勢とひたすら戦う、というのがこの作品の特徴で、本当に、画面の左側にスパルタ兵、右側にペルシア軍の特殊部隊(巨人、象兵、など)が現れては倒して面クリア、次の面白敵キャラクター(魔法使い、不死身のエリート部隊)などがまたやってくる、という絵作りは、当時「300型」と呼ばれて未だにこれをやっている映像監督も居るくらいに一世を風靡しました。

 と、この通り、物語は非常に単純なんですね。

 ヴィジュアル・コミック(大人の絵本)の作りのままに、ページをめくると次の敵、という感じです。

 その戦いがスパルタ兵が全滅するまで続きます。

 しかし、続編の「300 帝国の進撃」はこれとは全然違う趣向の、いわば普通の映画です。

 しかも割と複雑なストーリーが展開されます。

 これが私が油断して借りてきて集中力がないまま観てしまっていまいち理解し損ねた一因でした。

 では、どう複雑化というと、そもがこれ、続編とは言えないのです。

 スタート地点は、実は300より前の時代からになります。

 アルタクセルクセス二世の父親の一世がかつてギリシャに侵攻してきていて巨大な艦隊で迫ってきた物の、アテナイの軍人、テミストクレスに防衛され切り、最後には那須与一よろしく彼が遠距離より放った矢によって討ちとられてしまうところから物語は始まります。

 これにショックを受けたのが少年時代の二世で、彼は姉として育てられたギリシャ人奴隷、アルテミシアから洗脳されて彼女の意のままに操られる帝王モンスターへと変化します。

 そこからの侵略の話が300です。

 こちらの「帝国の進撃」では、アルタクセルクセスの大軍勢がスパルタに向かっていて、テルモピュライ(炎の門)で足止めを食っている間に、アテナイでは何があったのか、が描かれています。

 いわばB面というか「ペルシアの進撃、スパルタで観るかアテナイで観るか」というような立体的な関係にあるお話なのです。

 かつてスパルタ側の物語では、アテナイ軍の部隊が加勢にやってきて、スパルタ王レオナイダスから「お前らの仕事はなんだ?」と訊かれた後に「パン屋だ」「食器を作ってる」などと生業を答えて、専業兵士集団であるスパルタ兵たちから笑われていましたが、アテナイ・サイドの物語ではその、パン屋や食器屋さんからなる徴兵部隊が、上述のテミストクレスに率いられて活躍する話となっています。

 要するに、国民皆兵、かつエリート部隊以外の脱落者は全員粛清、労働は奴隷に任せるという異常集団スパルタとは真逆に、当時から民主制によって運営されていたアテナイの、職業を持った市民としての人間が一丁事あれば兵士となって戦っているのです。

 では、一体誰と闘うのかというと、これがアルタクセルクセスを神がかりの異常な王として育て上げたプロモーター、アルテミシアです。

 彼女の動機はそもが、自分の出身地であり自分を奴隷として売り飛ばしたギリシアに対する復讐でした。

 そのためにクセルクセス二世を焚きつけた後も、自分で海軍を率いてアテナイを陥落させようとしていたのですね。

 と、ここまで書くとこれは割かし普通の軍記物です。

 日本映画だったらここまでの作品で、ただアクションをして(例の、いまだにやってる300型横スクロールアクションだ。ゲー)おしまいでしょう。

 しかし、先に書いたように、これを民主主義の危機のお話として描いたところが映像作家としての能力です。

 

                                                 つづく


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