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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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五行と勁

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皆様あけましておめでとうございます。今年もSMACをよろしくお願いいたします。

さて、年明けはいかがお過ごしになられてでしょうか? 二年参りやテレビ鑑賞などで過ごされた方も多かろうことと思います。

私は平素通り、早くに寝ていました。

しかし、夜明け前に目が覚めてしまいました。身体が妙にイライラしています。布団を蹴り飛ばしてしまいました。

分析すると、左の前腕、右の足首と手首、それから首の右側にそのイライラがあります。

そこの筋肉が寄り集まってうずいているようです。みなさんもそのように関節でストレスを覚えたことはありませんか?

これは怒気です。

原因はすぐに思い当たりました。一人稽古納めで打樁功を行ったのがそれです。

ここのところよく行っている、平馬で肝臓と脾臓の勁を強調して暗勁の撑掌をしていたのですが、これ、もちろん全身の整勁で行います。関節運動ではありません。

そうすると体幹と脚の勁が相対的に強い分、直接に反作用を受ける前腕や手首、足首に負担がかかります。

いわば、交通事故を何度も繰り返すようなものですから、首に負担がかかる場合もあります。これはたぶん上手にやればだいぶ緩和できるのですが。

活用した勁力が大きかった分、この後の養生功が少し足りなかったようです。

うっすらした記憶だと、昨夜はひどく風が強かったようです。そのようなときは五行が崩れやすく、私の体内も反応しやすかったのでしょう。

内側できちんと鎮火されずにくすぶっていた怒気が燃え上がってしまったのです。

怒りは五臓のうち、肝臓に宿ります。これは木に属して火を生じさせます。

本来、我々の暗勁は水のもので腎を主催としているのですが、油断からの不始末ですね。水の気と勁がメインだからこそ、暗い静かな勁となるわけです。普段はこのようなことは無いのですが、夕食に火鍋を沢山食べたのも良くなかったのかもしれません。

すぐに陰の気を用いて養生功を行い、固まった筋膜を伸ばして心身に静けさを取り戻し、またいつもの気持ちよい状態に戻ったのですが、正しく学んだ見識がないと、存外にこういうことで人はたやすく偏差に陥ります。偏差とは五行のバランスが崩れてしまった状態ですね。

むかし出版された書籍に、短勁は指や腕の神経をイライラさせて瞬発させて打つと書いてあるものがありました。

これが、怒気、火気を使った発勁です。ここのところ、うちの学生にやらせないよう苦心している奴ですね。

これをメインにした武術もあります。

同じ洪門の家族武術である物にもありますし、かつて私が学んでいた客家拳法の魔拳にもあります。

それらは他門から、あそこの連中は怒りっぽいとかけんかっ早い、凶暴だなどと恐れられているのですが、その理由はこのあたりにあるのだと思います。

瞬発運動を多用していると、反応もピクッ、ピクッ、と早くなり、平素から神経がむき出しのニクロム線のように過敏になります。

また、突然夜中に目を覚まして稽古をしたくなったりもします。

これらは、武術でだけ見ると良いことのようにも見えるのですが、実は五行のバランスで言うと偏っているのです。

私たちの蔡李佛や、洪拳でも、このような短勁を用いる技法もあります。総合的に様々な要素が伴った門派なので、初学者や女性の護身術に、段階の一つとして用意されているのです。

我々の門では、十字鬆功というのがそれです。

これは肩幅くらいに立ち、両手を同時に前に伸ばしたり左右に開いたりして、短勁を行う護身術の練習です。

相手が一人で身を守るときには、この練功で養った短勁を使って、胸の前に腕を伸ばして橋法で守りながら、指先や手刀で細かく攻撃をしてゆくのです。

その段階を経て、全身を換勁し、長勁を見につけ、暗勁で相手を体ごとぶっ飛ばす威力を体得して多人数戦に備えます。

もちろん、これはあくまで傍門の技術であり、中核ではありません。ちょっとしたトンチのようなアイディア作戦です。

現在はむしろ上達の妨げとなる場合があるのでうまくなってから知識程度に行っているのですが、二代前までの先生方はこの戦い方を強調した洪門の拳法を入門としていました。

私もまた、龍形拳や小念頭というこの短勁の套路から入りました。小念頭とは、トンチ、ちょっとしたアイディア、という意味だそうです。

指先で突いたり、とがった拳で相手の弱いところを痛めつけるというトゲトゲしい技が満載の拳法でした。

そのような技術もありますが、本来の少林武術は大乗の武術と言われています。大切なのは道や法を悟り、則天去私に至ることであり、応敵は主としての目的ではありません。

私の言い方で言うなら、ビューティフル・ライフのためのメソッドであり、ファイトがメインでは無いのです。

これは最初に書いた、リラックスした水の状態か、イライラした火の状態かの選択でもあると思います。

もちろん、燃え盛るようなパワフルな人生も尊敬すべきものです。ただ私はあくまでスローライフのためのメソッドを行っています。

ヴァイタライズするだけなら、西洋スポーツや日本武道の押忍の世界でも良いのだと思っています。インドのヨガや老荘の思想から生まれた中国武術のアイデンティティは、身体をくつろがせることを通して穏やかで気持ちの良い人生を送ることだと考えます。

これは道徳的な上っ面の標語ではありません。安寧は、現実的に肉体の運動を通して得られる物なのです。

今年もそのメッセージを常に発信し続けてゆきたいと思います。


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