中国四大怪奇小説と言えば、日本でも有名な「西遊記」「水滸伝」「三国志」に「封神演義」を加えた四作品だというお話です。
これらの小説、明から清の時代に講談の種本として民間伝承などが統合されて作られたので、どうしても時代の風俗が編成当時の物によってしまって、同じ時代の話のように感じられてしまいますが、実は全然別の時代の話です。
特に武術関係で有名なのが、三国志の時代にはあのような武器や防具は無かったということです。
当時の鋳造技術では、大偃月刀や蛇矛はまだ作られていなかったと言うのが定説です。あの豪傑たちのファッションはあくまで講談や京劇での創作で、実際には地味な甲冑をまとって素朴な矛を持っていたというところだと読みました。
そのような脚色を取り払って時代別に並べると、歴史上で最も古いのが封神演義となり、次が三国志、それから唐の時代の西遊記となり、最後が宋代の水滸伝となります。
三国志の時代、二世紀から三世紀というのは後漢の直後で、その前の前漢の時代が紀元前二世紀から始まったことを考えると、ものすごく古い時代です。まだキリスト様が生まれる前です。
さらにその前漢というのは、秦の始皇帝が中華帝国を始めて設立した時代の後の時代なので、中華の歴史でもものすごく古い。
漢時代のマジョリティであった漢民族が今に至るまでえばっているのも分かるくらい歴史があります。
ちなみに、三国時代の終わりのころの日本が卑弥呼の時代で、魏志倭人伝に「全身刺青の裸族でまじないしの女王に率いられていて貝を拾って食べている」と書かれていたことを考えると、この中華史観における彼らの優越感も想像が出来なくはありません。
だって、こっちが竪穴式住居の時代に万里の長城がもう建ってから何百年も経ってたんですもの。そりゃ地球の先輩面もちょっとはされてしまっても幾分は仕方ない。
で、それくらい途方もなく古い、日本がまだ半分神話の中にいたような時代よりさらに昔の時代に起きた革命を描いたお話が封神演義です。
どのくらい前かというと、三国時代より千三百年くらい前です。
おっと、ものすごい! 紀元前11世紀というのだから大変なお話で、さらに気の遠くなる話なのですが、この革命で倒された殷という国が成り立ったのは紀元前17世紀ということです。
なんということでしょう。
この時代の前の王朝は夏と言い、これは伝説上の存在とされています。歴史と神話の半分このような時代です。
さらにその前が、黄河文明の時代です。世界三大、ないし四大文明の時代です。
つまり、人類最古の時代と言ってもいい。
封神演義と言うのはそういう、地球の歴史から言っても相当に大昔のお話です。
それだけ昔のお話ですから作品の内容と言うのも半分創世神話のようなところがあります。
「三国志」が中華帝国が三つに分裂した経緯と戻るまでを描いた話であり、「西遊記」がコズモポリスとなった中華帝国が他国からの移民を受け入れるべく国教を換える話であり、「水滸伝」が宋王朝の改革の失敗を描く話であるのと比べると、そのスケールがまた一味違います。
「封神演義」を一言で云うと「神様を作る」話です。
えぇ~、それって創世神話じゃないの? と思われるでしょうが、中国ではもっとずっと前に世界が作られています。
そのあとになってから「神」という発想が中国に生まれたのです。
これには説明が要りますね。
中国でいう「神」は我々が言う伝統的な意味での「神」とは少し違います。
そういう物は古くは「地霊」などと言ったり、のちには「仙」と言いました。
つまり、仙道というものがすごく古くからあったことが分かります。この仙道こそが気功の思想であるので、我々中国武術とは直結したものです。
さて話を戻しましてでは神とは何かというと、「神対応」とか「神セブン」(すいません、意味は知りませんで引用してます)とかの使い方と同じなのです。
つまり「すごい人」とか「すごいこと」を指します。
もともとが神というのが神経というような意味なので、超人的な器用さや体力や脳力を持つ人に向けられるのかもしれない。
なので、槍が得意な人を神槍と言ったり、刀が得意なら神刀とあだ名されます。
中国武術の世界で今でもよく聞くあれです。あの用法は紀元前からあったというお話です。
その、常人ばなれはしているんだけど、仙という今の我々から見た公式なGODではない人々のことを「神」という役職に任命しよう、というのが封神演義の内容です。
封じる、というのは任命するという意味ですので、神に任命する、というのが封神という言葉の意味です。
日本でも菅原道真公などが神様に祀られましたが、あれが典型的な封神です。
中国で大々的にそれを行ったときのお話が封神演義です。まぁ、AKBさんみたいなグループの全国オーディションドキュメント映画といったところでしょうか。
バチ当たりますね私。
長くなりましたが次回からその内容に触れてみたいと思います。