ここでは、いままでずっと鶴拳の歴史と言う物について語ってきました。
これは、鶴拳が猴拳類と並んで中国武術史において重要であり、言うならば 蔡李佛拳の中でも鶴が重要であり、個人的に言うならこれが鶴拳の一派である五祖拳を求めて私がフィリピンに渡った理由です。
一応、これまでの追求でいろいろなことが見えてきまして、おそらく、猴拳の段階と鶴拳の段階というものがあるのではないかと伺っておりまして、それは通背と心意の段階なのではないかといまのところ類推してなお研究の過程にあります。
そもそも鶴拳類というと日本では福建鶴拳の印象が強いと思いますが、中国にはいろいろな鶴拳があるのです。
有名な太極拳すら鶴拳類だという説さえあります。
俗にラマ拳とも言われる西藏白鶴拳と言う物もありますが、これなどはまるまる蔡李佛拳そのものの様相をした拳法です。また蔡李佛で言うと李家拳の中にもその名もずばり白鶴拳という物があるくらいです。
そしてこれらが面白いのは、いわゆる福建白鶴拳と違って短勁の瞬発的な武術ではなく、長勁の武術なのです。
長い間そこに不思議さがあったのですが、福建鶴拳は典型的な客家拳の仲間であり、虎や龍、蟷螂などの拳法が客家武術の中にもありますので、たまたまメジャーな動物として鶴の名前が付いているだけで、あまり他の鶴拳類との関連はないのかなと思っていました。
が、その印象を変えた派があります。
私が蔡李佛の師父だというのを知ってSNS上でコンタクトをくれた台湾の福建白鶴拳の先生なのですが、この方の鶴拳が長勁なのです。
驚きました。
形はまさに福建白鶴なのですが、そこここに蔡李佛の錘のような物が入るので、非常に驚かされました。
ホームでの表演会に蔡李佛を招いたりもしているので、向こうではそのつながりを自覚されているのでしょう。
「骨肉分離」「羅漢化鶴」などの言葉を教えてくれたのもこの先生です。
この羅漢化鶴、少林羅漢拳が改変されて鶴拳になったという創始伝説にまつわる言葉なのですが、またの言い方を太祖化鶴とも言うそうで、この羅漢拳がすなわち太祖長拳を差しているのであろうことも示してくれました。
その先生が最近、向こうに伝わる拳諺を公開されたのですが、そこには、羅漢化鶴とはすなわち、羅漢拳の短勁が白鶴拳の長勁になったということだ、と書かれていました。
やはり私の見立ての通り、そこの鶴拳は長勁だったのです。
形式は短勁に見えるのですが、中身は長勁が入っていたのです。
これは暗勁なので見分けるのが非常に難しいのですが、どうやら間違ってなかったようです。
昔、ある台湾の白鶴拳の老先生が言っていたのですが、福建白鶴の多くは失伝されている要素が多いと言うのです。
だとしたら、本来は短勁から長勁に化する武術だったものが、その暗化が失われたり、あるいは表から隠されたりしてきたという経緯があったのではないかと類推しております。
鉗羊馬系の南派拳法とは言え、実際には短勁は入口で実は奥には長い勁になるというコンセンサスがあったのではないかと現在思っております。
また一つ、中国武術というもののアウトラインが見えました。