あるミュージシャンさんは、ソウル・ミュージックのレコード・コレクターだそうです。
昔のソウルにおいてはLPを出せるのは全体からすると三割程度のスターだけだそうで、多くのアーティストはEPのみのリリースだったそうで、それを発掘しては集めているのだと言います。
LPがリリース出来るミュージシャンと、そうでないミュージシャン、その差はどこにあるのかと言うと、白人社会に受け入れられたかどうかなのだというのです。
これは映画「デトロイト」でも描かれていたことですね。
白人に受け入れられていない分、EP専門のミュージシャンの方が楽曲が濃いというのです。ブラック・ミュージック用語でいう「音が黒い」という奴ですね。
ですから、そういった楽曲を聴くと好事家にはたまらないものがあるようです。
このエピソードだけでも、私のような物は痺れてしまうのですが、このコレクターの方の所属しているバンドの結成のきっかけというのがまた振るっています。
ある時この方が某海外のバンドの音を聴いたときに、その生々しい音の世界に引き込まれて「世の中にはこんなすごいジャンルがあったのか! この曲のレコードを沢山買って世界中にばらまきたい!」と思ったというのです。
しかし、現実にはそれは無理。
そこでフツーはDJや音楽ライターにでもなりそうなものですが、この方は自分でそういった感じの曲を弾くことでみんなに知ってもらうことにしたというのです。
ですので、「自分自身が売れたいとか天下取りたいとかそういう気持ちは無い!」と断言されていました。
それに反して、ロックを広めるために彼らの選んだ方法は、まず三年間、誰にも公開せずに練習をすることだったそうです。
周りのロック好きな若者たちが生半可な腕前でどんどんライブハウスなどに出てゆく中、自分たちの目的を見失うことなく、選んだものが広められるだけの実力が着くまで雌伏したというのです。なんと見事な人たちでしょう。
「俺たちのことはいい! みんな、ロックンロールをもっと好きになってくれ!」ということだそうです。
これはね、伝統の継承者としては非常に素晴らしい姿勢だと思います。
私は強く心を打たれました。
私自身、その心を忘れてはいけない。
己一人の都合で動くのではなく、自分を救ってくれた武術のためになるかどうかを基準にして生きていく。
幸い、私の武術では自己愛は捨ててよい物とされています。
自分ではなく、武術を愛してこれを広め続けてゆきたい。