骨肉分離を伝授した後、そのままの状態で可能な限りの純粋な勁を使って套路をするようにと言っていたところ、打ち終わった学生さんが、いろんなことを考えている間が無くなる、と言っていました。
そう。
身体の中で静かにつながり続ける力を維持したまま動くことを考えると、余計な自我のざわめきは静まり返ってゆくのです。
そこはとても静かな穏やかな世界です。
このことを、私が好きだった頭のいい発達障害の女の子は「自分が消える」と呟いていました。
ただ、自分の内に通っている力を繋ぎ続けることをしていると、それは外の世界に働いている力とのつながりを求めることになります。
結果、そこに天人合一の感が顕れる。
ショーペンハウエル先生は、芸術に触れて美に打たれた時、人はそのような状態になると書いています。
そしてこの芸術の美とは、すなわち自然の美と同じだと言います。
どれだけ個人としての苦しみや不便、懊悩があったとしても、自然の圧倒的な美に触れた時、つかの間ではありますが人はそれらすべての個人の事情を忘れてただ美しさを観測する感覚だけの存在になることがあると。
その時こそが、我々が求めている、自然と繋がって自我から解放される時です。
それには、自分の考えを追いやってただ感じることが重要なカギとなります。
くだんの学生さんに言いました。
「だからこれは禅なのです」
骨肉分離も暗勁も、それに至るための道です。
そこを理解しようとせず、ただ圧倒的な力や人の知らないことだけを求めてエゴの沼に溺れている人には、決してこれを得ることは出来ない。
私は良い学生さんたちに恵まれています。
自分の人生に、この静かな世界を持つことは、きっと彼らの生をより良い物にしてくれることでしょう。