より直接的な例を挙げてみましょう。
スカルノ初代大統領らによって、インドネシアでは「(西洋に作られた)民族運動」が活発化し、反乱運動はやがて建国運動、独立戦争となりました。
彼らはオランダを追い出し、西洋人が作った区画の地域を自分たちの作った「インドネシア」という概念の国として奪還しました。
そこに助成をしたのがアメリカです。出たアメリカ!
このアメリカの手に乗って親米政策を取ったのが、インドネシア第二代大統領のスハルトです。
彼はそれまでの政策とは一気に方向転換をし、親米、反共を三十年に渡る独裁政権の間に渡って推し進めます。
その窓口を通してアメリカはインドネシアに、政府の手先機関とも言えるフォード財団によって大学経済学部を作ります。
これはすごいことです。
大学教育、および国の運営に強い力を持つ経済学部をアメリカが作ってしまうということは、国を動かす経済主義者がみんなアメリカ式の思想に染まってしまうということです。もちろん言語は英語となります。
そしてそれがフォード。フォードの工業思想がどのような物かは前回の記事で書いた通りです。
彼等のうち、優秀な物はアメリカの大学院に招聘されました。
こうして彼らを取り込んだリーマン・ブラザースなどのアメリカ資本の大組織が、彼らをインドネシアに送り返し、国の経済を動かさせるのです。
「フランケンシュタイン」の怪物から「盗まれた町」へのスライドです。
そうやってアメリカでホワイト・ウォッシュされた経済主義者によって、インドネシアに経済庁が作られました。
このようにして結局、ヨーロッパ人によってつくられた「東南アジア」という概念は仮想概念的な自我による自立を目指したのですが、結局先にヨーロッパから離脱していたアメリカに取り込まれる形で近代化を迎えました。
こうして世界はグローバナイゼーションという名前のアメリカ価値観の支配下に置かれて行ったのです。
インドネシア、マレーシア、韓国や日本と言った国が現代社会の中で「伝統思想だ」などと思っているような物の多くはこのようにして近代化の過程でねつ造されて、誤って認識されて来たものです。
そのような下での「伝統思想」を持つ「伝統武術」と言われている物の多くは近年創作された西洋思想による現代武道であることが非常に多い。
日本においては福沢諭吉の「脱亜入欧」思想を基に作られた現代武道などはその最たるものです。
ここの部分を間違えると、世界の実態に対する認識としてとんでもない間違いが起きてしまう。
また一方で、いまだにゲリラ活動、西洋近代化に対する抵抗活動が行われている地域もアジアには沢山あります。
インド武術、中国武術、フィリピン武術にその流れが保たれているのは、そのような西洋化やアメリカナイゼーションに対して一定の距離の確保をいまだに行っているからでしょう。
この地脈もまた、いずれ浸食されて行くことが考えられます。
いまこの段階で、どれだけの物が保存できるか。
それがどのような物であったのかを遺すことが出来るか。
そのようなことを掲示しつつ、この海賊海域が如何にして西洋に取り込まれて消滅して行ったかの文を締めくくりたいと思います。