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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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ニンゲンモドキ 2

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 昔、セラピストをしている友達と話していた時、ヨガを教えてくれるという話になりました。

 ほうほう、ヨガも出来るのかと思って教わりに行くと、やおら女性誌のページのコピーを取り出してきました。

 教えるというのはそれを見て覚えたヤツのことでした。

 なんというか、こういう、ダイジェスト的な物を目にして物を知った気になったり、分かった気になるというのは、この十数年くらいの傾向でしょうか。

 ネットによる情報の高速化と並行して起きた物であるように思われます。

 みながスマホを携帯してすぐに大抵のことは調べがつくとういのは、もちろんこれは便利なことで、私も大変お世話になっています。

 この間も不意に、福という字の編はどうだったっけ? と疑問が湧いてきたので即座に調べてアハっとできました。

 知らない場所に行くときや、地下鉄の乗り換えにも欠かせません。

 しかし、ある時NYから来た女性と話をしていた時、好きな武侠映画の話になって「○○ってみた?」と訊くと「まぁ、色々あるからね」とあいまいな返事が返ってきたことがありました。

 特にそれに対してなんとも思わなかったのですが、その少し後で相手が「スマホが広まったせいで、もう知らないと言えない世の中になってしまった!」とエキサイトした口調で言いました。

 これは、アメリカの女性にありがちな、なんだかよくわからないけど対話は何かのレースだと思っているという、国籍に由来する風土的気質のためだろうと思ったのですが、同時にそのような人達にとっては、スマホが状況をさらに過熱させるものになっているのだということを感じました。

 スマホは知らない物を調べるのに便利なのであって、スマホによって精神を拘束されるべきではない。

 そして、ここに書いた二人の女性はともに同じように、さっと調べられる簡易な情報を過大に評価している。

 情報が大量かつ安易に手に入るようになり、多くの情報はその場でさっと調べて捨て去る物になりました。

 各個人が自分の内部にプールしておく必要はだいぶん必要なくなっています。

 そして、そのようにして外付けの情報記憶媒体としてスマホを常用するようになった結果、人の中身がより薄れることになっているのではないでしょうか。

 長い年月をかけて、自分自身に刻み付けて行った、自分自身そのものだと言っていい情報を、人は持つのが難しくなってしまった。

 私たち伝統の世界の人間は、レイ・ブラッドベリの小説に出てくる人達のように、代々伝わってきた学識と自己を同一化しながら人間になってきた存在です。

 そのようにして確立されて気が自己というものは、同時に自己ではない物として相対化して見ることが可能であるような気が私にはしています。

 それが出来ると、他人のこともまた、自分の勝手な生活の利便性において便利な道具や不適切な障害物として観るのではなく、そこにある一つの世界として敬することが出来るのではないでしょうか。

 そういった見方が出来ないとすると、それは……いまだ表象と形式しか持たない、中身のない人間の外形をした物にしかなれないのではないかという気がします。

 自己を確立していない人間は、常に他人を踏みつけたり、足がかりとしたり、人に寄りかかったりぶら下がったりとしていて、自分の足できちんと立てていません。

 常に自分がその場に存在することに他人の存在を必要とする。

 人間とは社会性の動物なので、おおむね生きていくにはそれは非常に便利なことでしょう。

 しかし、一個人として自分の世界を生きることは……?

 そんなことは本当は必要ないのかもしれません。

 でも、私はそのように生きられている人間を本当に生きている人間とみなしています。

 そこにある豊かな世界と生が、人間の条件だと勝手にみなしている次第です。

 明治からこれまでは、大きな流れに乗ってみんなと同じことをしていたり、前の代が残したものに乗っかってさえいればそれで形が成り立った時代かもしれません。

 しかし、高度成長期も終わり、情報化が進み、個体差が問われる時代が訪れつつあるように思います。

 ただ情報を受け取るだけなのか、そこを足掛かりに自分の道を先に進んで、結果発信する側に回ることになるのか、生き方と人間の中身が直結する時代がくるように思っています。


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