キャリステニクスを進め始めて少しした頃に肩と並んで痛みを感じていたのが肘周りです。
もちろん、骨格にではなくて肘の前後、より詳しく言うなら肘の内側のひかがみを挟む前腕と上腕にです。
三角筋の時と同じタイプの筋肉が凝縮されるような痛みだったので、手で挟み込むようにしてもみほぐしてケアをしていました。うちの整体名人に習った推拿です。
コンヴィクト・コンディショニングでは、初めのうち、筋肉ではなく関節や腱を鍛えると言うやり方をしています。
それは、関節組織や腱が、筋肉より代謝が遅いからです。
筋肉に合わせたトレーニングをしてしまうと、関節や腱の回復は追い付かず、疲労と損傷が積み重ねられてゆくという考え方をしています。
筋肉痛が来るまで運動をしていると、関節を悪くするのはこの回復時間の差異が理由だと考えられます。
そこで、筋肉に大きな負担が掛かる以前の状態、関節と腱の超回復範囲ペースに合わせてトレーニング・メニューを組んでゆきます。
そのため、進捗ペースは非常にゆっくりになるのですが、これは伝統的な練功法と大変合致しています。
健康を損なうため、功を焦らずおどろくほどゆっくりしたペースで、小さな負担で少しづつ行ってゆくというのは中国武術の練功における正しいやり方です。
肘のトレーニング初期に疲労を感じた部分と言うのは、腕を走る腱であったかもしれません。
痩せている人や女性の腕を見ると、その辺に線が張っていたように記憶しています。
一日2セット、週に2セッション程度の範囲でこの部分のトレーニングを積んでゆくと、大きな上腕の筋肉のパワーに耐えられる強靭な基礎が作られてゆく訳ですが、この、腱を鍛えるという言葉は昨今日本の中国武術の世界で少し見直されているようです。
しかし、そこには誤解があるようにも思います。
また、そこにコンヴィクト・コンディショニングと伝統練功の差異が現れるのですが、中国武術における腱というのは現代医学用語における腱と同じではありません。
このようなことはよくあります。
例えば中国武術で筋肉と言う場合も同じです。
一般に言う肉のことは、中国武術では皮肉と言うことがあります。
運動に関わる特定の筋や肉を合わせて筋肉と言いえます。
この筋という言葉が、医学で言う腱を指して居たりします。腱の他に靭帯を含めることもありえます。
では、中国武術で言う腱とはどういうことなのか、というと、これはすべての門派に渡ってのことではなくて、あくまで私が教伝を受けた門内の言葉で言うならのお話をしましょう。
私が伝承している蔡李佛拳では、その根幹に鉄線功という思想があります。
身体の内側に、仮想の力の流れを作り、それを鉄線のように練り上げて活用するという物で、すべての動作にはこの芯が伴うこととなります。
先日、その功を示すために生徒さんの腹直筋をわずかに離れたところからゆっくりと拳で触れたのですが「重ッ!」と驚かれました。
加速したりや体重をかけるなんてことはしません。
あくまでただゆっくりと当てただけです。
しかし、重くて体の内側に力積が浸透してしまう。
想像してみてください。重い鉄パイプを羽根布団で巻いたような物を。
柔らかくてゆっくりでもそれでお腹を突かれればどうなるか。
鉄線功とはそういう物です。
短い距離での勁とは、長勁の武術においてはそのようも行います。決して鋭さや堅さで痛めつけるような尖りのある物ではありません。
丸くて重くて非常な力にゾッとさせられます。
これがあるから、我々の腕や胴体で打たれた人は「交通事故にあったようだ」「車に跳ねられたみたいだ」と言うのです。
この、鉄線勁に関して、ある時師父が教えてくれました。
普段はこの勁の流れを線と称して練習していますが、大師はこれを時に腱と呼んでいたと言うのです。
腱とは、勁道を指す言葉でもあるのです。
次回はこの、中国武術の勁の通る道と、勁ではなくあくまで筋力を繋げて使うコンヴィクト・コンディショニングの力の通るルートについて書いてみたいと思います。