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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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伝統的なグリップと腱

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 最近、グリップ・ワークを始めました。

 と、言っても、おなじみの握力を鍛えるハサミ状の道具を使ったり、ゴムボールを握ったりはしていません。

 古典的な身体操法におけるグリップ力というのは、いわゆる力でぎゅうぎゅう握りしめる物とは少し感覚が違うのです。

 よく、力の弱い子供や女の子が強く何かを握るとこのぎゅうぎゅう握りをやります。

 文字通り、内側に向かって肉を締める握力の発揮です。

 これを、ある日本古武術では「素人握り」というそうです。

 そうではない玄人握りとはなにかと言うと、私は古武術時代に「引っ掛け」と「なじみ」だと習いました。

 この引っ掛け、中国武術では抓力、あるいは把抓力と言うと聞いたことがあります。

 これを鍛えるのは、鷹抓功という練功法で、多くの中国武術に伝わっているように思います。

 また、少林拳の原点である物の名前は心意把。ここにも把握の把という言葉が出てきます。

 これらの「素人握り」ではない力のポイントというのは、握らないことです。

 引っ掛けたり、力の圧を馴染ませたりはしますが、ぎゅうぎゅう握りしめてはいないように思います。

 では、そのタイプの力を鍛えるグリップ・ワークとはどのような物かと言うと、拙力で握りしめるのではなくて、一定の圧で掴んだ物を維持するという練習をするのです。

 これは、フィリピンの秘伝武術、モンゴシでも習いました。

 沖縄空手でもやる、力石やカーミとそっくりのことをするのです。

 いま私がやっているのは、タオル・ハングという物です。

 やり方は簡単。鉄棒や梁にタオルを引っ掛けて、そこにぶら下がるだけです。

 おそらく、普通の体格の成人男性ではほとんど不可能でしょう。

 私も片方の手はバーを持ち、片方でタオルという初心者向けの物からやっています。

 これ、レスリング時代に推奨されていたロープ昇りの簡易版です。

 体育館にぶら下がっていたロープを掴んで昇ってゆくという物なのですが、いや、ほんの一瞬でさえも体重を維持できたことはありませんでした。

 これを可能にするのは、ぎゅぎゅう握りしめる力ではなくて、なじんで維持する力であるようなのです。

 まだまだ私は初心者レベルなのですが、それでも明らかに成果は出てきているようです。

 手指を司るのは前腕なので、これをやると前腕が太くなってゆきます。

 中国武術家の持つ印象的な太い前腕です。

 うちの師公は、信じられないような太さの前腕をしていました。

 これが太いということはすなわち抓力が強いということなのですが、別に相手を掴むためだけに鍛えているのではありません。

 以前、掌を鍛えると足の裏の感覚が強くなって立つのが上手くなると書きましたが、同様に抓力を鍛えると足の裏の抓力に至るまで、全身を通るラインが強くなるのです。

 ぶら下がって頭の高さまで両足を持ち上げるハンギング・Vレッグレイズという運動をしても、手指からの力が繋がって全身を操作するという感覚が強くなります。

 この感覚で、他のなにをしても強く出来る。

 ただ、先ほども書いたように、指をつかさどるのは前腕であり、その前腕の中にある腱です。

 この腱はとても披露しやすく傷つきやすい。

 何かの拍子に攣りそうになったことのある人も多いのではないでしょうか。

 なので、そういう張りを感じ始めたらもう練習は終了です。

 先三日ばかりはもう指を使うようなハードな練習をしてはいけません。

 完全に腱が回復するまでお休みです。

 腱というのは、中国武術に独特の力、勁を通る主要なラインの一つです。

 腱を使うからと言って勁ではありませんが、腱はケーブルのような物で、太く強くなっていると、それだけ大きな勁が通せます。

 前に開いた整体名人の整体ワークショップでは、最初に指の腱を使う練習を教わりました。

 この腱の力を使うと、相手の身体に力が通りやすいというのです。

 それは、練功をしていなくても一定量の勁が元々腱の中にいくぶんか通っているからではないかと思われます。

 柔術でも、これを用いて技を掛ける。

 これは、恐らくプリミティヴな動物の力なのではないかと思うのです。

 元気なゴールデン・レトリバーなどがはしゃいで体当たりをしてくると、当たり自体はガツンと硬くはないのですが、その力がふわっと自分をゆすってきたというような経験をされたことはないでしょうか?

 ゴールデンの身体はふわふわで痛くはありません。

 でも、何か柔らかい力が身体の中に入ってくる。

 これは、おそらく同様の力の使い方によるものなのではないかと思われるのです。

 伝統的なグリップ・ワークは、人間が動物だった時代の行動を模倣することで、本来備わっていた動物的な力の使い方を引き出すことを目的としています。


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