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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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懸垂から見えたこと

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 毎晩勉強に使っているYOUTUBEに最近、以下のような動画がレコメンドで挙がってきます。

 

https://youtu.be/iDhn6Sls3jw

 

https://youtu.be/UtV38gC3ujA

 

https://youtu.be/tFwsh7tgLC8

 

https://youtu.be/Wkd5r8tBWRE

 

https://www.youtube.com/watch?v=2S1I5DBx1VQ

 

 

 女性が懸垂する動画が世の中にこんなにあろうとは……。

 これらは非常に興味深い物でした。

 と、いうのも、たまたま朝に天気予報目当てで流していた番組で、吉田沙保里元選手が懸垂をするシーンに出くわしたからです。

 彼女は「懸垂は出来ないのだけれど……」と言いながら、ぶら下がり健康器で一度だけ懸垂をして見せました。

 身体に故障があるから出来ないのか、それとも元々懸垂が得意ではないのか。

 ツイッターで懸垂をしている動画があるのですが、その回数は十回。

 決して多くはありません。

 いや、ここで上に列挙した動画がそこで興味深くなったのです。

 ほとんどの女性は、懸垂が出来ない。

 出来るという人でも、多くがキッピング(足で宙を蹴って勢いをつけるチート)をしています。

 静かにただ上下運動が出来る人はほとんどいない。

 腕立て、腹筋、スクワット、懸垂という基本の運動の内、もっとも難易度が低いのはスクワットだと思っています。

 理由は、元々足と言うのが座ったり立ったりするのに使う道具だから。

 他の運動よりずっと自然です。

 腕立ては次に難易度が低いと思うのですが、男性はともかく女性は出来ないという人も珍しくはないようです。

 そして懸垂になると、実はほとんどの人が出来ないという話を聞きました。

 小学生が懸垂に挑戦をしている姿に出くわしたことがあるのですが、やはり一回も上げられませんでした。

 自重が軽いせいか、大人と較べると驚くほど長時間ぶらさがってもがいていたのですが、まったく上に身体がうごかずにじたばたしていました。

 私自身も、キッピングをしなければ懸垂は出来ませんでしたし、半年前はホリゾンタル・プルでも20回できつかった。

 いまのように、キッピングせずに両手を触れ合わせた懸垂を十回するというようなことは考えにくかった。

 懸垂という、足を使わないで手で移動するという運動は現代人にとってはかなり非日常化していると思われるのです。

 さて、では腹筋はどうでしょう?

 実は、吉田元選手は腹筋が出来ないというのです。

 私も足を何かに固定しないと出来ません。ジャン・レノもたぶんそうです。

 こういう、個人ごとの体質や気質という物の違いは必ずあるのです。

 あの吉田元選手が腹筋が出来ないということが以外だと言う声は多いでしょうが、そのうちの多くはあるいはこう考えるかもしれません。

「もし彼女が腹筋が出来たら、もっと強かったんじゃないのか?」

 それはどうでしょう。

 格闘技における強さで言うなら、私は決してそうだとは思いません。

 腹筋が出来なくて、懸垂はキッピングというのが、彼女が強みを発揮できたバランスだからです。

 単純な足し算ではなくて、大切なのはバランスです。

 格闘技の勝敗は相対的な物です。

 その時代、その時の環境においてたまたま相対的に有利になった人が勝者になります。

 とくにトーナメントでは、ワンマッチで強い選手でもスタミナや集中力が足りなかったり、怪我を持ってたりすると大会を制することはできません。

 逆に、強敵がすでに前の試合で弱り切っていたり故障をしていたりすることもあります。

 その段階で、かなり時世の影響と言う物があるのです。

 ある意味で、半分以上そこがあるかもしれません。

 というのも、試合の組み立て方、戦い方というのは時代によってはやりすたりがあるのです。

 ある時代にはものすごく有利だった技が、少し経つともうみんなが知っていて返し技を研究済みのカモ技だったりする。

 もし、吉田元選手が腹筋が強く、懸垂が超人的に出来る人だったら、相手を強く引き付ける技が得意だったかもしれません。

 前に押し込んでゆくタックルではなくて、引き込んで投げる技を多用したかもしれない。

 そうすると、得意のタックルは練習の割合の問題で半分の精度までしか練習が出来なかったかもしれません。

 そして、引き込みにカウンターを合わせるのが得意な選手にタックルで敗れることがあったかもしれない。

 あの時代に、実際に起きた組み合わせにおいて、結果的に彼女は実績を作った訳です。

 それが最良のことだったのでしょう。

 公式記録で勝ちまくっていたころのホイス・グレイシーも、決してフィジカルに優れた選手ではありませんでした。

 相撲において圧倒的に強かった曙が総合格闘技でひどいことになっていたということもあります。

 格闘技におけるバランスと言うのは戦術性による個性であって、あれもこれも出来ればそれで強いということでは決してありません。

 その人にとってもっとも自由に戦えるバランスが良いバランスなのでしょう。

 しかし、中国武術ではそれを否定します。

 格闘技ではないからです。

 中国武術は自分を高めるための行であるので、他者との相対的な勝敗ではなく、懸垂が出来ない自分から出来る自分、10回出来る自分から20回出来る自分への自らを強化してゆきます。

 そのようにしてバランスよく自分を改良することで、自分にとって生きやすい状態になってゆくことを目的としています。

 その結果の自由に生きられる身体というものを、我々は日々作っているのです。


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