太極拳の開祖のお話を書きましたが、一端わき道にずれることをお許し下さい。
太極拳の始祖として仮託されているのは、仙人の張三豊という人なのですが、この人については面白い伝説があります。
この人は、全真教という道教の一派の祖、丘処機の弟子であったというのですが、この丘処機道人というのは、チンギス・ハーンの参謀のようなことをしていた人です。
耶律楚材と共に宮廷の中にいた外国人顧問で、元が中国を支配するための統治策などを与えた。
この人に師事したという張仙人ですが、実は宋の時代から生きていたという伝説があります。
仙人なので不老不死なのです。
宋の八代皇帝の徽宗は、張三豊を探し求めていたというのですが、途中旅路が険悪で進めなくなったときに、夢の中で元帝に拳法を習い、それによって賊の群れを打ち払って道を開いたといいます。
元帝というのは漢の時代の皇帝のことでしょう。
だとしたらずいぶん取り留めのない話です。いかにも夢の話と言う感じさえします。
伝説に伝説を重ねて訳が分からなくなっているのですが、海外の研究者の中には、どうもこの時の拳法というのが太極拳なのではないかという見方もあるようですけど、いやもうレジェンドにレジェンドを和えたような話なのであにをあいはんやという感じです。
とはいえ、この宋と太極拳はうっすら縁があるかもしれません。
というのも、宋の太祖は自ら拳法を編み出してその力で国を興したという話があります。
この拳はそのために太祖拳と言われ、現存している拳法です。
そしてこの太祖拳は、のちに南方に伝播して南派太祖拳となったという伝説があるのですが、実際にいまでも行われているこの南派太祖拳は、いわゆる鶴拳類の一派で、福建鶴拳やカラテのルーツになったかもしれないと言われている物です。
さらに言うと、この張三豊の弟子が内家拳の祖となった王征南という人(これは実在)だと言う話があるのですが、この人が残したという内家拳という拳法は、実はこれ、どうも鶴拳類であるというお話なのです。
もちろん、どれも伝説のお話ではあるのですが、とても面白い符号を見せます。
なお、北に伝わっている太祖拳は南の鶴拳とはまったく違い、一名を太祖長拳とも言って長拳類であるようです。
これは少林寺にも伝わっており、こちらが陳家溝の陳王廷の拳法に影響を与えた可能性はなくもありません。
つづく