今回の平安ブームのきっかけとなってくれたのは、夢枕獏先生の小説でした。
ひところ、私は日本の作家と言えば夢枕獏と村上春樹くらいしか読まなかったというくらい、バックンにはお世話になりました。
ただ、もう80年代くらいからずっと書いてるのにいつまで経っても終わる気配がないシリーズも沢山あるので、この十年ほどの新刊なんて手を出せない下積み時代の間にすっかり読まなくなってしまって。
ようやく少し落ち着いてきたのでで完結している作品なら古本屋さんでまとめ買いしても良いかと思って探していたところ、今回の作品に出合ったのです。
「宿神」と言うのがそのタイトルです。
四冊並んで時代小説コーナーにあった物で、平安物で清盛と西行法師が主人公だと解説に書いてあるのを見たときに、これは「沙門空海唐の都で鬼と宴す」と同じでこの二人が今回の清明と博雅なのかな、と思ったのですがこれが大違い。
お話の縦糸は幻想的な要素がほぼ入らない、平家物語の物でした。
その中に、主人公である西行の視点から、王朝文化の物の見方というような物が味わえます。
タイトルとなっている宿神というのはその文化そのものを支えるような、私が学んできたことで言うなら老荘における気のような存在です。
その気に、それを見る人の自我が反映して、あるいは歌になりあるいは魑魅魍魎のようになる。
陰陽師でいうなら呪(しゅ)です。
この、気と唯識の世界観を通して、仏教的価値観における世界とは何か、というような物を存分に読むことが出来ました。
単に、気と唯識で言うなら達観した物語になりそうなものですが、作者のばっくんはと言うと、人間の業や性と言った物を書き続けてきた人です。
そのため、人の業をただ昇華して終わりと言うのではなく、実存を存分に荒れ狂わせて肯定するかのようなスタンスを保ち続け、その結果、平家物語的無常観に至ると言う、ものすごい小説になっています。
生き切る、ということを課題として与えられた私としては、大変に胸を打たれるところがありました。
平安ということで私のように、また陰陽師みたいなのかな、と誤解する方は大変多いと思いますが、どちらかと言うと「空手道ビジネスマンクラス練馬支部」や「神々の山巓」みたいな、「ちゃんとしてる方のバックン」「まとまってる方のバックン」の作品です。
素晴らしい作品なので、ご関心お持ちになられましたら、ぜひ。