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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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若草物語から見る現代社会 1

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 先日、前回のアカデミー賞にノミネートされていた「ストーリー・オブ・マイ・ライフ 私の若草物語」を観てまいりました。

 以後、映画版のネタバレになりますのでご注意ください。

 私はもともと、原作の若草物語は何度も読んでは挫折してきました。

 なので、南北戦争に行ったきりになっているお父さんは亡くなるんだと思っていたし、テディがジョーと別れて妹のエイミーと結婚するって展開を聴いても「は? なんで?」とまったく納得いきませんでした。

 それが今回、きわめて納得が行ったのは現代性を意識して作ってくれた監督の手腕なのでしょう。

 若草物語というのは、名作劇場のオープニング・テーマでも歌われているように「いつかきっと私にも、素敵な舞踏会に招待される日がくるわ いつかきっと私も素敵なレディになれる日がくるわ」と言った、舞踏会、レディ、と言った南部的価値観の前面に出た時代のお話です。

 そもそもお父さんが不在な理由が南北戦争に従軍しているということなので、そりゃあそうですね。

 そして、そここそがこの作品を読み解くカギでした。

 というのもまず一つ、南北戦争当時というのは奴隷制が解体される以前だという当たり前のことがあります。

 映画の前半でも、限りなくさりげなく、女学生たちが「奴隷制は恥ずべきだわ」「でもそこから恩恵も受けている」という時代の構造が表現されています。

 これに、お父さんの要素を加えると劇的に解題が行われます。

 このお父さん、兵士として従軍しているのではなくて、どうも従軍牧師だったらしいのですね。

 若草物語そのものが作者のオルコット女史の自伝的小説らしくて、映画版ではモロにそれが反映されています。

 当然、主人公のジョーが作者の写しなので、映画内での経緯を通して、若草物語をかき上げるという作りになっています。

 その、オルコット女史の父親というのが、エイモス・オルコットと言って、ものすごく有名な思想家らしいんですね。

「森の生活」で有名なソローも彼の教え子らしくて、超越主義の学校を開いていた。

 つまりですね、きわめてプロテスタント的な思想が常に若草四姉妹の家庭にはあったということです。

 はい、出ましたプロテスタント。

 いつもここで出てくる存在ですね。

 私は原作でちゃんと確認していないのですけれども、小説版ではこれはかなり露骨らしくて、四姉妹が悩めるたびにプロテスタントの思想によって軸を取り戻す、ということが繰り返されているとのお話です。

 だからなんですよ。

 プロテスタントというのは、資本主義を作った思想です。

 各人働いて金を貯めることが神への信仰であるということを打ち出してそれまでの清貧の思想と一線を画した画期的な思想です。

 だからこそ、最初にこれが広まったドイツは工業国になり、イギリスは経済の国になり、アメリカがそこからより濃縮還元された形で独立しました。

 要するに、軍事的な植民地思想の根本となっているのがこのプロテスタントの思想です。

 資本主義を成り立たせるためのピラミッド構造を肯定していて、それを世界中にグローバリズムとして広めたアメリカの根本にある精神がこのプロテスタンティズムです。

 そのことを、映画の中で「奴隷制度から恩恵を受けている」と正直に表現しているのですね。

 でもって、だからこそ、資本主義的に優位になって「舞踏会に呼ばれたい」「レディになりたい」というものすごく射幸的、現世的なことが彼女たちの人生の目標となっているのですね。

 もちろん、主人公のジョーの夢は「小説家になりたい」です。

 映画版ではこのことを、ものすごく減退的にぶっちゃけて噛みくだいてくれています。

 SNS世代的な「有名になりたい」「いいねされたい」「バズりたい」という願望ですね。

 作中で姉妹の欲求に対して非常にズバリと言われるシーンがあります。

 メリル・ストリープ演じる四姉妹の叔母さんというのが居るのですが、この人はお金持ちで男性の世話にならずに暮らしていてパリに旅行に行ったりしてものすごく「映える」暮らしをしている人なんですね。

 それが出来る理由を彼女ははっきりと「私にはお金があるから」と言っています。

 要するに、若草物語ってのは、資本、お金の話、お金があれば幸せになれます、というお話なんですね。

 で、それを支えているのが奴隷制度です。資本主義の下位に居る被搾取者です。

 すごいでしょ?

 風と共に去りぬがBLM問題でやり玉に挙げられていましたけど、まさにその部分に直球ストレートなお話なんですね。

 この、お金の話としての若草物語、次回に続きたいと思います。

 

 

                                                                       つづく


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