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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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伝統武術の思想から見たポストモダンと現代社会 4

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11・冷戦の時代 歴史の終り

 ナチが居なくなった後、アメリカは黄金期と呼ばれる50年代を迎えます。
 イギリス、フランスから世界の中心が移行して行った時代とも言えると思います。
 そこから80年代にかけての時代は、自由主義国の盟主となったアメリカと、唯物思想の代表国となったソ連との冷戦の時代です。...
 この時代、フランシス・フクハラというアメリカの官僚が「歴史の終り」という論文をホワイトハウスで発表して思想界の話題となりました。
 そこでは、神亡き時代のあと、数世紀にわたって西欧社会は思想的背景を失い、アイデンティティを見失って錯綜してきたが、啓蒙主義による自由、平等、博愛こそが結局は真理であり、唯物思想と決着をつけることになるということが書かれており、また、その最終決着がつけば世界は平穏を取り戻し、そこにて人類の歴史は終わり、以後は無限の平穏であるとありました。
 もちろんこれは、結局のところ神の時代の千年王国思想があまりにも土台となった考え方に受け取れます。
 そして、そのように中身が変わっても入れ物自体が変わっていないということこそ、構造主義が訴えていることです。
 このような隙だらけで大上段という説のため、一笑されて終りでも当然だったのですが、実際はそのようにはなりませんでした。
 というのも、事実、世界の思想界においては、まだ次の思想が見つかっていなかったからです。
 現行の思想の限界に気づきながらも情勢だけが進んで行き、本質的な人類の救済方法が見つからないまま、最終ラウンドが見えてきていました。
 そして、ソ連が崩壊しました。

12・ヘーゲル学派 埋まらない空白という挫折

 フランシス・フクヤマの思想の根源が、ヘーゲル哲学です。
 また、マルクスもヘーゲル哲学を批判しつも強い影響を受けて発展させていった一人だと言われています。
 ヘーゲルは18世紀の生まれで、その哲学は大変難解で、様々な解釈で色々な学派に分かれています。仏教論理との近似性も挙げられているそうです。
 ヘーゲルは、人間主義、啓蒙主義の理想としてフランス革命を高く評価していました。
 自由、平等、友愛の精神が神を否定したことから、人類自身による人類の善と理性の時代が来ると想定していたのでしょう。
 しかし、そんな時代は着ませんでした。人間は道を見失ったまま数世紀を越します。
 冷戦のさなか、マルクスとフランシス・フクヤマという両陣営に影響をもたらして「歴史の終り」のコミッショナーのような立ち位置に居たヘーゲルのこの挫折は、ついには勝利したアメリカを、50年代の時点で指差していました。

13・コジェーヴ 動物化

 アレクサンドル・コジェーヴは、ロシア人の哲学者で、ヘーゲル派の講義をフランスで行っていました。
 彼の講義には、バタイユ、ブルトン、ラカンという、錚々たる面子が出席していたそうです。
 このすごい影響力を持った学者の生涯は波乱に満ちています。
 父親は満州で戦死、のち、義理の父はロシア革命のどさくさの中で死亡します。
 その後、ドイツに亡命して哲学や中国語、チベット語、サンスクリット語などを学んでゆきます。
 さらにフランスに移民、ソルボンヌに移籍します。フランスが哲学の本場であったことは前述したとおりです。
 それどころか、これまでに書いてきた国の哲学の現場ほとんどにつながっていると言っていい人物でしょう。
 また、1959年には日本にも来て、独自の儒教的文化様式に多いなる人類の希望を見出したという話もあります。
 コジェーヴはフランスの経済使節として世界中を行き来して活躍します。貧しい人々のための経済活動の対策として、ケネディに期待を寄せていましたが、しかし黄金期のアメリカ社会には大きな失望を感じていました。
 というのも、それは彼の師であるヘーゲルが見ていた、神が居なくなった後の、自由、平等、博愛の精神と豊かさが伴った最初の社会だったからです。
 にもかかわらず、黄金のアメリカ社会は、即物的欲求を消費活動で満たすことだけに特化された、精神性の無い世界でした。
 そこにはニーチェの超人性のような、自らの意思によって概念としての世界を切り開いてゆくという真理に向かう力への志向は存在していませんでした。
 結局のところ、神の死から数世紀、様々な環境を整えられたにもかかわらず、人間は失われた空白を自らで満たすことが出来なかったのです。
 そのような状態の場当たり的な欲求を満たすだけの人間を、コジェーヴは「動物化した」と表現しました。
「歴史の終り」において自由主義が唯物歴史主義に勝ったということは、動物化した社会の到来を意味していました。

                       つづく


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