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キツネとオオカミの神話

 ニール・ゲイマンって作家さんの「アメリカン・ゴッズ」が物凄く面白い。

 アメリカ大陸に、各地から移民が集まったときに持ち込まれた各民族の神々のことを描いた小説なのですが、ここで描かれている神々と言うのはあくまで人間が祀ったことで作った物として描かれており、ある種の民俗学的な存在となっています。

 作中でも書かれているように「アメリカ人なんてものはもともといない」ということで、確かに現在では、アメリカ先住民と呼ばれていた人たちもアジアから北部経由で移動してきた人たちだと言う説が有力とされています。

 また、ヴァイキング民族の物語では、過去にアメリカ大陸にたどり着いてそこを「ヴィンランド」と名付けた物の住みづらかったので遺棄したという言い伝えがあるようです。

 コロンブス以降のことは皆さんご存知の通り。

 これまでここに書いてきた通り、海賊たちから彼等に連れてこられたアフリカの人々、太平天国の残党を先達とした中華系の苦力、大戦前の日系人など、多くの国の人々がアメリカに移民しました。

 人が移民すれば、そこに各地の文化や信仰も持ち込まれます。

 しかし、彼らが代を経て「アメリカ人」になってゆくと、元々の風習や信仰は薄れてゆきます。

 そのようにして忘れられて行った、落ちぶれた神々の物語がこの「アメリカン・ゴッズ」です。

 これがね、もう私に言わせればアメリカの村上春樹を見つけた、という感じで、パルプ小説にインスパイアされて小説を書き始めたという春樹の作品が、またアメリカで再評価されて向こうにエッセンスを受け渡したのではないか、というような印象さえもたらします。

 この小説の中で、とっくに忘れされれたインディアンの神が、忘れ去られた神話を語ると言うシーンがあります。

 その物語に私は、大変に感銘を受けました。

 

世界の初めには、キツネとオオカミの兄弟が居た。

その頃、死は死ではなく、死んだ魂もやがてまた肉体を得て生まれ変わって来た。

ある時、狼は言った。

「これはまずい。このままではいずれ生き物が地上に増えすぎて全てを食べつくしてしまう」

確かにその通りだと思って、キツネは死と生を分った。

やがて、オオカミが死んだ。

オオカミの魂はキツネに言った。

「俺を蘇らせてくれ」

キツネは答えた。

「それは出来ない。お前は死を定めることを語って俺を納得させた。死んだ者は死んだままだ」」

キツネは泣いていた。

そうして、オオカミは死と月の世界の住人となった。

キツネは地上と太陽のもとで生き続けている。

キツネはいまも弟を悼んでいる。

 

 ざっとこのようなお話です。

 私が望んでいるのは、このキツネのような生き方です。

 公正と中立を持ち、苛烈な決断から逃げることなく、痛みをきちんと抱えて生きて行くということです。


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