Quantcast
Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3388

道の神々

$
0
0

 先日、アメリカン・ゴッズのことを書きましたが、考えてみれば私のしていることもアメリカン・ゴッズみたいな話です。

 古い伝統の中に語られていることの真実を求めて、フィールド・ワークと資料との照会を繰り返している。

 仏教武術の継承者と言う視点を通して、仏教文化圏を掘り下げる、ということをしていると、様々な古い神々の存在に遭遇します。

 ついこの間は、以前から探していた神々の祠にたどり着くことが出来ました。

 

 以前にも取り上げた、双体道祖神です。 

 私が住んでいる神奈川県はこの双体道祖神という意匠の本場とも言われている土地なのだそうですが、特に私が住んでいる地域には特別な意味があります。

 東海道の宿場町、女陰ヶ谷と言われていただけあり、飯盛り女と言われる売笑婦で有名だったと言われています。

 宿場町と言うことは、当然馬の往来が盛んであり、それを引く馬方が沢山居ます。

 彼らが道の守り神として、道祖神と馬頭観音様を祀る訳ですね。

 この馬方たち、馬喰(バクロ)と呼ばれる訳ですが、バクロという語には博労、博郎という字も当たったように記憶しています。

 すなわち、宿場町で賭場を開いている博徒たちですね。

 暴力団組織と言うのは運送業者から発生する物だと言いますが、江戸時代でも例外では無かったようです。

 当然彼らは性風俗業も仕切っていた訳でしょうから、道祖神が性神信仰であることには合理性があります。

 今回遭遇できた双体道祖神様の希少なところは、左右に陰陽石を伴っているところです。

 男性器と女性器を象った石が合祀されています。

 特に、女性器の道祖神はとても珍しいように思います。

  この陰陽石を見ると、これがシヴァリンガが渡来した物のように思われますが、ファルス(陽根)信仰は世界中にある物で、どうやら自然発生した物らしいということは以前書きました。

 そして、南方熊楠曰く道祖神とはシヴァ神ではなくヴィシュヌ神であろうということも記述しました。

 双体道祖神として描かれる時には、当然ヴィシュヌ神とラクシュミー女神だと考えられます。

 面白いのは、この道祖神と共に馬喰に祀られる馬頭観音が、インドではハヤグリーヴァと呼ばれていて、それがヴィシュヌ神の異名だとされていることです。

 おそらく、この辺りが南方熊楠の見立ての取っ掛かりなのではありますまいか。

 さらに突っ込むと、この馬頭観音、金精信仰と結びついたということです。

 金精信仰とは何かといいますと、これはファルス信仰です。

 陽根を飾り、祀って豊穣を祈る物なのですが、恐らくは温泉旅行などでこれらのご神体を目にした方も多いかもしれません。

 それは単に地方にある温泉町が土俗の世界に存在しているからということではなく、金精様と対になって温泉が女性器であるとされているかららしいのですね。

 陽根のご神体が比較的目に入ることが多いのに比べて女性器のご神体が少ないのは、温泉がその具体となっていたためかもしれません。

 山にある金精様と温泉が結びついて、新たな精を生み出して地の豊穣に繋がるという精信仰です。

 美人の湯、子宝の湯というのはこういった背景がある訳ですね。

 武将の隠し湯などと言って傷に効く温泉があると言うのは、やはり羊水に浸かって再生をするという発想があったのでしょう。

 面白いのは、この金精信仰にはやはり性病除けのご利益があるとされていることです。

 温泉地に行くには道の安全が前提となります。

 そしてそこには性の信仰があり、性病を避けるご利益が必要となるようなことがある。

 物流、経済効果、性風俗と、すべてが一つに繋がってうかがえるように思えます。

 近代化以前の人々の、個々人の性の営みと社会の構造がひとつながりになっていた世界観が垣間見えるではありませんか。

 このように、文化の中に存在している神々や価値観を掘り下げてゆくことは、まるでアメリカン・ゴッズのようですね。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 3388

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>