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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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獣の相関関係

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 鶴拳類の南進について書いていますが、また少しそれてそもの動物拳法について少し書いてみます。 

 中国武術は、ヨガ、気功が延長された形で今のスタイルになったと言われていますが、特に古い気功の中に、五禽戯という物があったと言うのはよく耳にします。

 これは五種類の獣の動作を取り入れた気功のようです。

 気功というのは、元神という人間の本能の部分、動物の部分を活性化させるために行う物なので、動物の様相を模倣する訳です。

 その時代から発生して、拳法の中にも動物の動作が含まれる物が多いわけですが、ここで追及している把の動物が、鶴だ猿だと言うのもその文脈に則っています。

 把の系統である、心意六合拳は別名を十大形と言って、十種類の動物の勁を模倣した武術です。

 ここで十というのがポイントで、一般に十大形のうち、特に重要だと言われている物が二種類あるとされています。

 多くの派ではそれは鷹と熊であり、あるいは鷹と虎です。

 これは、空の王と地上の王という意味で陰陽関係を作っている訳ですが、十大形には、鷹のほかに鷂という鳥があります。これはハイタカとも言って、小型の鷹だそうです。

 鷹に対して鷂が居るというようなこれを、大形と小形という言い方をします。動作が大きいのと小さいのだよ、という意味です。

 これと同じく、龍が大形として、蛇が小形になります。

 熊の小形は猴、サルです。二足歩行の立ち上がった動物として、共通するわけです。中国にはゴリラがあまりメジャーではないようです。それよりはパンダを始めとする、熊の方が印象があったのでしょう。

 虎の小形となると、普通は猫か豹だと思われますが、なぜか十大形には両方いません。その代わりに、馬形が虎形に似ています。

 このように対で考えてゆくと、こじつけも含めて五種類の大小分類が基は意識されていたのであろう、と思われてきます。

 五獣、となると、かなり広く様々な拳法に見られる概念です。

 五、となると五行。中国ではこれが互いに有利不利のジャンケン状態になってゆきます。

 ジャッキー・チェンの映画「蛇拳」は、蛇拳の使い手であるジャッキーが蛇の天敵である鷹拳に苦戦するお話でしたが、そのピンチを彼は鳥を捕食する猫拳を編み出して打破します。

 蛇←鷹←猫のこの構図が、五獣にも働きます。うちの五獣で言うと、虎、豹、蛇、鶴、象なのですが、このうち、豹よりは虎が大きいので強い。しかし、大きさで言うと象のほうがさらに大きい。とはいえ、巨大な象は足元の蛇にやられることがある。そして蛇は鳥に食べられて、鳥は猫である豹に取られるという相関関係です。

 古典的な中国武術は、天地陰陽の思想よりなりたっていて、相克と相生を持ってタオの働きとみなすため、この考え方が多かれ少なかれ見られます。

 例えば、福建鶴拳の創始伝説にある、尼僧が鶴と蛇が戦うのを見て闘争の法を得たというのなどはこの典型でしょう。

 この類の中で、非常に奇妙な物が南派蟷螂拳の創始伝説です。

 これは、武術に行き詰っていた拳士が、カマキリと雀が戦う様をみて編み出したと言われています。

 一撃でスズメの首をはねるカマキリの姿を見て悟るところがあった、と言いますが、カマキリがスズメを取りますか?

 そんなシーンは見たことも聞いたこともない。

 なぜこんな話を作ったのでしょう?

 それは、スズメが鳥だという暗号なのではないでしょうか。

 つまり、この一連の稿で見るところの、鶴の象徴です。

 鶴は心意六合拳や形意拳では鷹や鶏になり、猴拳では猿になり、蟷螂拳ではスズメになったのです。

 つまり、既存の把系の拳法へのカウンター要素がここで構想されてのではないでしょうか。

 だとすると、これは、白眉拳の、道人の武術が少林を破った、という創始伝説と符号します。

 南派蟷螂拳、白眉拳は、福建白鶴拳と並んで、W拳の母体であったと言われています。

 このW拳、大変に特徴のある戦法の武術です。

 特に大陸から海を渡った香港系にその系統が強いようですが、最近聞いた話では、香港にこれを広めた一大宗師と言われている大師が、大幅に経変を加えてその傾向を強めたと言われています。

 この拳は技撃に優れていると聞きますが、その特徴は戦法であり、内功や発勁の強さではありません。

 むしろ、それを否定している節さえあります。

 これが一大宗師の改編で、育ちのよかった彼は、当時押し寄せていた列強の文化を取り入れ、近代様式に拳を作り替え、幾何学や数学的思考で武術を再編したそうです。

 あるW拳の師父が言うには、W拳と言うのは動物の要素を取り入れて強くなろうという発想を捨てて、人間としての知恵を伸ばして獣に勝ろうというコンセプトなのだということなのだと最近教わりました。

 この伝統思想への脱構築により、獣の相克を乗り越えたのです。

結果、内功を理解し成果が表れる時間をショートカットして、すぐに強くなれる拳法として大いに隆盛しました。

 そしてこのことを、私は武術の格闘技化と呼んでいます。いわば西洋文明化、近代化です。

 しかし、もちろんこれを持って、中国武術が「進化」してW拳が最強の物になったということではもちろんありません。

  獣同士が相克していたように、獣の勁を活かした形意拳がW拳を天敵とするように、今度は同じ格闘技的な戦い方をもっぱらとする、ボクシングやムエタイ、レスリングや総合格闘技がW拳の天敵となってゆくのです。

 タオが働いている限り、一極にすべてが集約されるということは無いし、あるべきではないのです。


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