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現代社会における性神神話としてのジブリ作品 3・カオナシの大衆

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 千と千尋の神隠しについてのお話を続けましょう。

 神々と人類を繋ぐものとしての性について前回は書きました。

 親世代の罪の贖いとして神々のセックス・ワーカーとなった千(千尋)を差配しているのは老婆です。

 ジブリの作品においてヒロインと対応して常に年上の女性が配置されているということはこれまでも書いてきました。

 これは女性性が持つ女神性の役割交代、世代交代を意味する物であると想像されます。

 今回の物語ではヒロインは非常に弱い立場にありながら、年上の女性の支配から脱却をしなければなりません。

 この構造が物語の縦糸としてあるのですが、過程の推進力として非常に重要な存在の男性が二つ描かれます。

 一つは千を助けてくれる少年、ハクなのですが、彼もまた、人間の環境破壊によって力を失った神の一柱です。

 もう一つは、逆に千尋の障害とも言えるカオナシと言う存在です。

 千尋に執着し、触れる物すべてを飲み込み、自分が本当には何を欲しているのかもわからない混沌のような存在なのですが、これは一体何なのでしょうか。

 前の記事で千尋をグレタ・トゥーンベリさんのようなZ世代の象徴だと書きましたが、その視点からみるならこのカオナシは、彼らの一つ上の世代である我々ロスト・ジェネレーションのことであるようにも見えてきます。

 デジタル・ネイティヴではなく、後からネットが出て来て、そこにしか自分の力の及ぶ範囲を確保できず、自分自身を見ることも出来ず、何物にもなれなかった存在と言う意味では、かなり重なっているのではないでしょうか。

 このカオナシ的無気力を、さらに言うなら産業革命以後に現れた何物でもなく物を考えもしない人間の姿、すなわち「大衆」であると解釈することも出来ます。

 大衆であるというなら、千尋の両親たち消費主義世代、バブル世代もまた同様です。

 物語の最後の試練として、千尋は自分を支配する年上の女性から逃れるために、目の前に広がる豚の群れの中から両親が変化した豚を見つけろという謎解きを持ちかけられます。

 もちろん、そんなことは無理です。

 なぜなら貪欲さ正気を失って豚になった大衆こそ、まさにカオナシなのですから。

 伝統的な社会構造では、社会を構成するのは三つの階層の人間だとされているということは以前の記事で書きました。

 西洋で言うなら、貴族、市民、平民。

 中華で言うなら、大人(士、君子、士大夫)と小人です。

 西洋の貴族と言うのは封建社会における特殊要件なのでこの場合外してみましょう。

 すると、市民と平民というものが大人と小人に相当すると考えられます。

 これはつまり、自分で物を考えて社会参画をしている人間と、大衆ということです。

 孟子はこれを、精神労働をしている人間と肉体労働者だと言っています。

 さらに言うと、孔子の論語では、後者の肉体労働者とはすなわち、奴隷のことです。

 ここで忘れてはならないのは、精神労働であって知的労働ではないということです。

 すなわち、詰め込み式の教育やネットですぐに調べられるような知識ではなく、精神の在り方が生き方に反映しているか否かが境となっているということです。

 千尋と言う少女は実に稀有な精神の持ち主で在り、それで神々の心を動かすことが出来たために助力を得てこの試練を脱することが出来ました。

 神々の心に通じて試練を打破するということは、すなわち巫女だということです。

 性神信仰に携わる物でなくて一体なんだというのでしょう。

 彼女自身がアメノウズメノ命の末裔として巫女の役割を果たすことが出来たからこそ、神々からの負債を支払うことが出来た、ということでしょう。

 だとしたら、すでに取り返しがつかないほどに神々の価値観に負債を抱えてしまっている我々にとっては、いまいちどこの性的な感覚ということを取り戻し、それによる精神活動を生き方に取り入れることが有効であるかもしれない。

 少なくとも私はそうやって生きて伝統的な行をし、こうして発信をしている次第です。

 

                                                                      つづく

 

 


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