Quantcast
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3388

近代アジアの市民史 1・まずは近代西洋史について

 思えばここで記事を上げるということを始めた十年近く前、キリスト教圏の歴史の大要からルネサンスによる人間主義の流れ、それから革命の季節の到来について書いて現代社会の成立を辿ったことがありました。

 現在我々が住まっている資本主義社会の中の国の現状を認識するためには欠かせない経緯だったと思っています。

 今回お話するのは、それらの流れを踏まえた上での、少し前に書いたロシアを舞台にもしたスパイ映画の話に通じる内容です。

 現代社会を観る上で、産業革命と第一次大戦を重要なパラダイム・シフトとして繰り返し扱ってきましたが、その前夜のことから今回の話題を始めたいと思います。

 当時、資本主義の草創期に重要な位置をしめる人物として、ロックという人がいました。

 彼より少し前にはヴォルテールと言う人がいて、この人の思想がロックに影響を与えました。

 彼らは当時の市民階級であり、教養主義を西洋社会に広めた人たちです。

 当時の社会には、王族を始めとする貴族階級があり、その下に彼等市民階級があり、さらに下には平民層がありました。

 これを中国の儒教的階層認識に当てはめると、聖王ら貴族は貴族階級、君子や士大夫、大人と言うのが市民階級、小人が平民層という処でしょう。

 儒教と言うのはそもそもこの中華的市民階級から貴族階級を教化することで経国済民をなすというベクトルの元に成立していましたが、のちに市民から市民への教化の色を強めてゆきます。

 いずれにしても、小人と言うのは「度し難し」として教化の対象外となっている。

 ロックらの時代の英国では、この市民層と言うのは三つの階級によって成り立っていました。

 最も上に居るのが士爵層です。

 子爵ではありません。それは貴族です。

 士爵というのは口語で言う時には分かりやすくナイト爵などと言いますが、これは世襲のされない一大限りの貴族のことです。

 現代にも残るサーの称号というのを得た人たちですね。

 その下に居るのがエスクァイヤと言われる階層の人たちなのですが、この雑誌の名前で有名なエスクァイヤというのは元々、貴族見習のことだったと言います。

 アーサー王物語に出てくるパージヴァルやガラハッドのような、騎士について修行をする少年たちのことです。

 これが転じて、騎士の下に居る階級のことをエスクァイヤと言ったそうです。

 この階層の特徴は、騎士と同じく領地があるということだそうで、一定の資産と領地があるために当時の方では参政権を所持しています。

 最後のジェントルマンと言われる階層は、領地や資産があっても、参政権に至るのに定めらえただけの額には足りないという人たちです。

 ジェントルマン層はその意志によっては、資産を拡張して参政権を獲得することが出来ました。

 ナイト、エスクァイヤ、ジェントルマンのような市階級をまとめてジェントリと呼んでいました。

 このジェントリ層が活躍して形骸化していた貴族層よりも活動し、平民層の生活を動かしたことによって英国の産業と帝国主義は進んで太陽の沈まない帝国を形成しました。

 これをして、彼等英国の生産の中心となった層を市民と呼ぶのです。

 このジェントリ層の活躍の中で、人民への教化が進みました。

 学問を通して知性を高め、その知性によって理性を獲得することで世の中を良くしてゆけると考えていたのです。

 ここで注目すべきは、知性そのものによって世の中を向上させるのではなく、知性を土台に理性を獲得してそれによって世の中にアプローチしよう、という部分です。

 これは、儒教における経国斉民における、知性よりも徳目が重要であるという考えに非常に共通しています。

 すなわち、資本主義の萌芽の時代において、すでに資本主義社会において重要なのは理性だという考えがあったのです。

 ではどうしてこれが成り立たなかったのかというと、ロックの時代の後にゲーテと言う人が現れました。

 あの「若きウェルテルの悩み」などの小説を書いた詩人のゲーテです。

 彼は貴族主義の極めて実務に長けた官僚でした。

 彼はその芸術においてロマン主義というムーヴメントを広めました。

 これは、知性よりも感情は勝るという考え方です。

 この考え方が民衆に大ブレイクしました。

 しかし、当時の民衆は知らなかったのでしょうが、ゲーテと言うのは極めて厳格な貴族主義者で、平民たちには大変厳しい視線を向けていた。

 どのくらい厳しいかというと、言論の自由などは一切認めない、というような考え方です。

 つまり、ロマン主義とはあくまで貴族を対象とした物、生活が事足りていて物を判断する環境が整っている優雅な生活をする人たちの風流として想定されていた物なのです。

 しかし、このロマン主義を真に受けた平民たちは感情のままにフランス革命を蜂起、支配権を手に入れたジャコバン派の連中は感情のままにギロチン政治を送って気に入らない奴らの首をどんどん刎ね散らかしてゆきました。

 この時の政治を俗に恐怖政治というのですが、まさに恐怖と言う感情レベルで世の中を動かすことがロマン主義から生まれたという次第です。

 21世紀日本においても隆盛している忖度やハラスメント、体育会系経営に無意味な敵対などもまた、この直系と言えるのではないでしょうか。 

 この恐怖政治のことを、テロリズム、と呼びます。

 

                                                                          つづく

 

 

 

 

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 3388

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>