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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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宇宙人の映画について

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 現在、ここでの記事は書いてからドロップするまでひと月以上のラグがあります。

 ですのでまぁ、ネタが古くなるのは仕方がないのですが、それにも少し良い面もあるかなあ、というのは映画のことを書いても公開早々のネタバレにはならないということです。

 今回は、ウルトラマンのことについて書きます。

 ネタバレをしてゆきますので、どうかお好みでない方は退出願います。

 今回のリブート映画「シン ウルトラマン」は、オリジナル版のエピソードをいくつか繋げて一つのお話にしたものでした。

 それによって一つの世界観と言う物が明確に提示されることになるのですが、それが、高度に発展した宇宙人たちの世界と言う物がこの宇宙には存在していて、地球はそのユニバースの中の(マルチバースと呼ばれています)、発展途上の一つの辺境地帯だということです。

 怪獣と言うのはこの高度に発展した宇宙人たちがかつて戦争時に使った生物兵器で、地球に廃棄された物だという設定になっています。

 このことについて、怪獣の多様性がそがれるために非常につまらないという意見を目にしましたが、確かに今回は怪獣たちのダイナミズムは大幅にスポイルされており、宇宙人たちの世界が主要な軸となっています。

 ウルトラマンはその、高度に発展した宇宙人の中の一人なのですが、彼以外にもいくつかの宇宙人がこの作品には登場し、地球に、というか日本政府に働きかけてきます。

 そう、今回の映画は異文化コミュニケーションSFで、宇宙人たちは地球に政治を仕掛けてくる存在なのです。

 どうしてそうなったのかと言いますと、二つの理由があります。

 一つには、地球で発展した生命体が文明を進化させて、惑星そのものに大きな影響(要は環境破壊を含んでいる、ということとでしょうな)を持つに至ってかつて宇宙人たちがフリーズ状態にして廃棄した怪獣たちを掘り起こすに至ってしまったということ。

 そしてもう一つには、そのレベルに発展した地球人がいずれマルチバース社会に進出してくることが想定されているので、いかようにしてその高度発展宇宙社会に受け入れるか、ということがあるためです。

 いつもここの記事を読んでくださっている皆様なら、この地球の姿に対して私が、清朝期の中国や幕末の日本、スペイン統治時代のフィリピンの姿を重ね合わせることはお分かりいただけるでしょう。

 第一の交渉者であるザラブ星人(今作での呼称は星人は付かづにザラブのみ)は、先行して怪獣災害を食い止めていた宇宙人であるウルトラマンの信頼を貶めて優位な取引を展開しようと、偽ウルトラマンによる破壊作戦を展開します。

 もろに政治っぽい、偽旗作戦、フェイク・ニュース戦略です。

 現代戦の最先端であるハイブリッド戦争をしています。ウルトラマンと。

 つまりこれ、中国大陸で列強が行っていた分瓜、つまりパイの取り合いをしているのですね。

 もちろん、ウルトラマンはザラブのような商売友好関係宇宙人ではありませんので、どちらと友好関係を結ぶかは人類にとって非常に重要な分岐点となります。

 もう一つの宇宙人が、メフィラス星人です(こちらも今作での呼称はメフィラスのみ)。

 これがね、非常に良かった。

 そもそも私はメフィラス星人が非常に好きな宇宙人でした。

 まともに戦って負けていないという強さと、理性的で取引を重視するという高い知性やある種の公正意識を持っているところに子供の頃からある種の憧れを抱いていました。

 基本的に私は、怪獣をやっつけない話の方が好きな子供だったのですが、特にこのメフィラスにはある種の「大人」の姿を見て自分もあぁなりたいと感じていたように思います。

 このメフィラスの目的は、地球人にウルトラマンと同じく巨大化する能力を提供することです。

 もちろん有料です。

 彼と契約をして巨大化装置を買い取るのです。

 これさえあれば、地球人は怪獣の脅威を自己解決することが可能になり、ウルトラマンの傘から軍事的独立が可能になります。

 これは、9条問題、核保有問題に繋がるお話ではないですか。

 よくウルトラマンに対する「なんで日本にばかり怪獣が来るんだ」という10歳くらいの的を射ていない突っ込みに対する面白い返答になっています。  

 仮面ライダーの悪の組織は海外に本部がありますし、ゴジラ映画では凱旋門などに怪獣が現れており、本来特撮作品の敵役は日本にだけ現れている訳ではありません。

 日本人の主人公の活躍を描くからたまたま国内でのお話になるだけで。

 しかし、もし本当に日本にだけ怪獣が現れていて、その対策力を日本が勝ち得たらどうなるでしょうか。

 軍事的に日本が地球最強の地位を得てしまうのですよ。

 国民一人一人がウルトラマンの能力を得てしまう。

 これは世界中が黙っていないでしょう。

 今回の映画はそういうお話です。

 ですので、日本政府は外国政府の横やりやかっさらいが入らないうちに緊急に取引をまとめようとします。

 対してメフィラスの方にも同じ事情が宇宙を舞台に存在しています。

 というのも、すべての知的生命体が同じように巨大化出来る訳ではないようなのです。

 つまり、地球と独占契約を結ぶことに成約すれば、メフィラスは宇宙中に巨大化した生物兵器を供給できるようになるという軍事メジャーとしての確たる地位が手に入ります。

 面白いでしょう?

 しかし、日本がそれだけの軍事力を手に入れることをアメリカやロシアが黙っていないように、宇宙国際社会もまたメフィラスのその占有をだまっては居ません。

 そこで、ウルトラマンの母星M87(今回は78ではなく87)から、使者がやってきます。

 機を見たメフィラスは強引な締結を結ぶことを撤回し、制裁を食らう前にとばかりに撤収します。

 やはりこの辺の臨機応変さがかっこいい。

 そうしてやってきたM87の使者、まぁ、ネタバレをしているのでいってしまいますが、これはゾフィーです。ゾフィーがどうするかと言いますと、このままでは地球人は発展して宇宙社会に進出してその軍事力で強い影響力を持つ可能性があって危険なので、いまのうちに殲滅してしまおう、ということで最強兵器であるゼットンを「エンター・ザ・クラーケン」とばかりに投下します。

 ゼットンは起動させられてから実動までに一定時間が必要な兵器なので地球からは上空に浮かんでいるゼットンの姿が見えるのですが、日本政府はどうせ助からないのだからとこの事情を国民には説明しないことを選択します。

 これ、先進国による後進国の発展操作と、愚民化政策のお話ではないですか。

 現実世界で我々が行っている、後進国の発展を抑えて希少金属や天然資源を搾取して、自立しそうになってきたら早い段階でくじいてまた搾取を続ける、という構図がまんま適応される状態ですよ。

 M87にはSDG’Sが無いんですよ。

 がっかりだよゾフィー!

 最終的には、ウルトラマンと協力した人類によってゼットンは撃退され、ゾフィーもまた次の作戦を展開することは無く、この星の自治に対して一定の猶予を与えて様子見となって終わるのですが、全然心休まる状況ではない!

 いま、ウクライナで行っていることとまったく同じことではないですか。

 ウクライナの発展を抑えておいてNATOには入れないとしながらロシアとの壁にしておいたりして世界の発展のバランスを取り、いわゆる「スモール・サークル」の国々だけが世界中から既得権益を吸い上げ続けるというお話ですよ。
 これは、まさにいまの状態だからこそ、多くの人に鑑賞して自分たちがどういう状態に居るのかを自覚してほしいところです。

 我々は、世界中の発展途上国の人々にとっての外星人だということを分かってほしい。

 それともう一つ、本当の意味での反知性主義という物について考えて欲しい。

 現在の反知性主義の主流と言うのは、先進国の大衆が既得権益を振りかざして平等化に反対して差別の正当化を図るような物になっていますが、本来は反知性主義が民主性において認められている理由と言うのは、環境などの理由によって十分な認識能力を得られなかった人たちのことを知性が勝った既得権益者が自由に引きずり回すことを牽制するための物です。

 作中の地球人と言うのは、宇宙の先進社会における明らかな反知性階級です。

 その地球人の人権と言うのを、ゾフィーなどはまったく省みずに、宇宙全体の功利主義に乗っ取ってゼットンを放ちます。

 完全に、一部知性階級が世界を差配するという知性主義です。

 そうじゃない、物が分かってない人たちにも人権をちゃんと見ないとだめなのだ、というのが本来の反知性主義の考えだと私はかつて読みました。

 現在の世界情勢における、反知性主義者のやりたい放題の愚行と照らし合わせて、この辺りももう一度考えてみたいところです。


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