私は「日本一話の面白い武術家」を目指して活動しているところがありますが、最近ではもう一歩進んで「面白い話屋さん」になりたいと思っている節があります。
これは、以前に妖怪の話か何かを書いたときに触れた気がするのですが、私の原体験というのが大人たちから面白い話を聴くのが大好きだった、ということであるためです。
そのまま自分で本を読むようになり、いまに至っています。
外国で武術の師に入門して教えを乞うて結果継承者になる、というのも、基本的には知らない国の面白いことを知っている人にお話を聴くことの延長にある気がします。
古伝も秘伝も、みんな私にはとてもとても「面白い話」です。
話戻りまして、子供の頃の私のお気に入りのお話のジャンルは三つ。
お化けの話と、アーサー王伝説と、ギリシャ神話でした。
みんな怪物が出てきますね。
この三つの原点の内、今回はギリシャ神話について書きたいのです。
というのも、子供の頃から長年抱えていた疑問に、研究者の方の著書から答えが与えられたためです。
私が子供の頃から抱えていたギリシャ神話への疑問と言うのは、いわばそのヴィジュアル・イメージとの齟齬でした。
ギリシャ彫刻なんて言葉があるように、彼の神話は多くの芸術作品のモチーフになっています。
大神ゼウスと言えばワンショルダーでヒゲの生えた威厳のある男性、ポセイドンは三又の矛を持った上半身裸の男性、ヘラクレスは棍棒を持ったマッチョマンと、我々は彼らの姿をどこかで刷り込まれたイメージで想起することが可能です。
しかし、これらにちょっと違和感がありました。
その代表なのが「エンター・ザ・クラーケン」で有名なギリシャ1の美女、アンドロメダ姫です。
彼女が岬に鎖でつながれてクラーケンの生贄にされるという絵姿を我々は検索すればすぐに観ることが出来ます。
そこでは裸の美女がしどけない姿で描かれていることでしょう。
彼女は若く、美しく、白人です。
しかし、神話の中では彼女は「エチオピアの王女」とされて居ます。
アフリカ出身なんですよ。
おかしくない?
そう、ホワイト・ウォッシュされている。
絵画自体が古代ギリシャに描かれた物では無くて、ルネッサンス以降の物であるために、白人優位主義下のフィルターで描かれているのです。
それでね、あらためてギリシャ神話に出てくる地中海の地図を思い浮かべていただけると分かると思うのですが、メインとなる現在のギリシャの位置って左の上側だけですよね。
下はアフリカ。
右はトルコ。
つまり、上はヨーロッパで下は中東です。
もっと言うと右側はアジア。
そこがギリシャ神話の舞台なんです。
それを頭に入れて古代ギリシャのお話に出てくる怪物たちの描かれた調度品なんかを見ると、物凄く色合いや品質が、エジプトやオリエントのタッチであることに気付きます。
あれ、ギリシャ、アジアなんじゃね?
古代ギリシャ最大の危機と言えば、クセルクセス率いるペルシアの侵攻。あの「300」の奴ですね。
で、ペルシャに侵攻されて向こうについてしまったポリスもいくつもあります。
あれ、やっぱアジア文化じゃない?
そうなんですよ。
これ、恐らくは誤ったイメージが我々には刷り込まれている。
もっと言うと、グリフィンやケルベロス、キマイラ、マンティコアと言ったモンスターたちも、西洋風RPGのキャラクターとして登場しますけど、これ、西洋文化のキャラクターじゃないんですよね。
これなんでイメージが混濁していったのかというと、恐らくはギリシャの後継国として、その文化と地政学的状況がローマに引き継がれたからでしょうね。
そのローマが、ゴリゴリの白人による白人優位主義の国だったために、ローマ エピソード0のギリシャも同じイメージに上書き刺されてしまったのでしょう。
これは偶然ではありません。
白人優位主義による意図的なホワイト・ウォッシュです。
そのことについて明文されているのが、気鋭の研究家、藤村シシン先生による仕事の数々です。
次回はその内容について触れて生きます。
つづく