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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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ギリシア幻想 4・性と英雄

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 さて、前回は元々は単体でトルコで崇拝されていた女神のヘラが、ゼウスとまぐわうことなく単身で生み出した怪物テュホンのことを書きました。

 この邪神とも言える巨大な怪物は地上の怪物たちの王で、地上の覇権をめぐってオリンポスの神々と大戦を繰り広げたほどの力を持った存在でした。

 ヘラは結婚の女神だということですが、このように婚姻によらずに一人で子供を産んでしまうと、既存の神々の価値観とは別ベクトルの強力な神を生み出してしまうのですね。

 ですので、彼女にはつねにゼウスがついて一対となっていないと、古代ギリシャ的価値観のコスモが維持をされなくなってしまう。

 結婚の女神を結婚から引き離せば、地上に破壊が現れる。

 しかし、ゼウスと言えばあちこちに私生児をこさえていることで有名です。

 これによって「ギリシャの神様は人間臭い」なんて定型句を疑いなく言う人が居ますが、これは別にそういうことを伝えたくて作られたエピソードではありません。

 ギリシャ各地のポリスの人々が「我々はゼウスの子孫だ」と言うことにしたがったために、自分たちの土着の英雄や王様の出自をゼウスの子だとしてしまった結果であると言われています。

 しかし、ギリシャ神話の面白いのは、そのようなことも飲み込んでさらに神話が続くことです。

 ギリシャ神話の、いわばシーズン1は初めの女神であるガイアが世界の色々な物を生み出してゆき、その娘のレアがハデス、ポセイドン、ゼウスの兄弟を始めとするオリンポスの大人神を産み、彼らが前の世代のタイタン神族を滅ぼして世代交代をするまでだとします。

 その後のシーズン2は、テュホン大戦をクライマックスとし、地上に人々が現れるまでとしましょうか。

 ここらのシーズン3では、地上の人たちが主人公となります。

 地上に英雄たちが生まれて、神々がちょっかいを出す、というおなじみのパートですね。

 これらを「英雄神話」と呼んだりするそうです。

 この英雄たちを、英語ではインモータルと呼びます。

 ギリシャ神話を題材にした「インモータルズ」という映画もありました。

 これは、不死者や半神と訳されます。

 なぜ彼らが半神かと言いますと、以前に書いた中国における神のように人が進化して神になったから、という訳ではなく、元々ホントに神々が彼らの片親であるからです。

 それが、ゼウスらが地上の娘や妖精やらに手を出した結果です。

 なぜ彼らが英雄になるのか。

 それは彼らが単に神の血を引いて優れた人間だったからだという訳ではありません。

 ここでヘラの存在が浮かび上がってきます。

 結婚の女神である彼女は、婚姻を冒涜すると地上を破壊するばかりの怪物を生み出します。

 つまり、結婚の守護者であるということは、その違反者に対するアヴェンジャー、懲罰者でもあるということです。

 ゼウスが他の娘に手を付けて子供を作るということはこの懲罰の対象になります。

 そこで彼女は半神が生まれると、彼等に対して怪物を送り込んだり悪しき運命の罠を仕掛けたりと、地獄のデス・ゲーム、いわばヘラ・ゲームを仕掛けます。

 それらの試練に立ち向かう人たちのことを、英雄と言うのです。

 英雄を意味する英語「HERO」というのはこのヘラに由来するというのですね。

 そのHEROの代表格、ヘラクレスの名前ももちろん、ヘラに由来しています。

 古来、英雄と言うのは怪物を倒して姫を手にすると言う定型がありますが、これは文字通りこのような直結した構造があったからなのですね。

 性神信仰のものすごい面白いバージョンではないですか。

 

                                                つづく


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