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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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さかなのこ 4

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 危なっかしいミー坊が荒れた高校に居ることは、観ている者に不安を与えます。

 しかしミー坊は、得てして起きそうな「不良生徒に目を付けられる」のではなく、自分から目を付けて絡みに行っています。

 総長と呼ばれている学校の不良のボスのことを、おそらくは面白いと思ってちょっといじっているんですね。

 報復として彼らがミー坊のところに怒ってやってくるのですが、ここが映画としての面白いバランスが感じられるシーンになっています。

 被害者として苦情を申し立てる「総長」に対して、ミー坊は好きな釣りの手を止めずに背中越しに対応するというほとんど前田慶次郎のような傍若無人のふるまい。

 これに対して総長がまた、地元の漁師の家の子で気が荒めというだけで根が素直で良い子だったらしく「そういうのはいけないんじゃないですか」と割と可哀そうな感じの被害者のポジションになって行ってしまっています。

 コミュニケーションにおける強弱の関係が逆転しているんですね。

 これは、ミー坊のような子と接する時には「まともな方」が合わせないと話が通じないので、どうしてもアドバンテージは相手に譲られがちということになります。

 結果、相手の取り組み方で組んでしまった方は組手負けをしてしまう。

 人の好い総長はころりとペースに飲まれてしまいます。

 ここで、そんないい不良はそんな地方の荒くれた土地に居る訳がない、とご都合主義の匂いがしてくると全体の説得力が失われるのですが、この映画はちゃんと細かいディティールで根回しをしつつ、残酷な現実も(を)描くという作品なので抜かりはありません。

 この不良たちは、監督の設定としては現実的なリアルな本物の不良ではなく、あくまで「不良に憧れてる小規模なヤンキー」みたいな位置であるようで、得てして本物の暴走族にありがちな上納金を要求しているような年長者と言う存在はいないようです。

 ですので「総長」もさかなクンと年ごろが変わらず、暴走族を気取っていますが乗っているのは50ccのスクーター、手下の二人は自転車というなんちゃってぶりです。

 そんな彼らと敵対関係にある他校の不良グループの親玉「剃刀モミ」もマンガ「クローズ」に出てきた最初の武装戦線の総長みたいな、フリーザ様的キャラクターで、芝居がかった台詞を頑張って言っている感じの子として描かれていて、本当にガラの悪い犯罪常習者予備軍といった感じの子ではありません。

 剃刀モミのグループの強者として登場する「狂犬」と呼ばれる不良(ちなみに私は子供のころ喧嘩ばかりしていたせいで狂犬病とあだ名されていましたので、ちょっと彼には親近感を覚えました)は、実は小学生時代のミー坊の友達、ヒヨ君だったということが判明します。

 荒くれものの不良を気取って一生懸命そのペルソナで社会生活を送っていたのに、小学生時代の友達に出会って「おーい、ヒヨー」と抗争の場で手を振られる気まずさ。これはまともな不良世界をロールプレイするのが難しくなるというお膳立てが出来ています。

 それでも最終的にビーバップハイスクールごっこのような乱闘になるのですが、こういうの、この時代はよくあったんですよね。

 半ば喧嘩、半ばプロレスごっこ紛いの、ホントに大ごとになったしゅんとしちゃうような感じのが。

 この時代のすぐ後に、それまでは見せるだけだったナイフで本当に刺し合うという時代になって行って、社会問題になったことを時代の当事者として覚えています。

 ミー坊の周りの不良たちも、威圧しあう段階では凶器を振り回して見せるのですが、実際に戦う段になると取っ組み合いを始めます。兄弟げんか程度のものです。

 ここで、またこの映画の手際の良さが出てきます。

 ミー坊、喧嘩が強いって設定でガタイがいい狂犬よりも強いんですよ。

 というのも、幼少時にギョギョおじさんについてっちゃったとき、彼は道着を着ているんですね。

 空手教室に通っているのかな、と思ったらこれは合気道を習わされていたらしく(親御さんがこの子は危なっかしいと思っての配慮かもしれない)、顔面パンチはやりすぎ、金的に入ったら入れた方が謝る、というような牧歌的な不良の喧嘩においてはこの

関節技は有効で、完全に場の空気は彼が支配してしまいます。

 その彼が途中でまた集中力を無くして海で泳いでいるアオリイカを見つけたことからたちまちみんなの遊びの流れは漁に向かい、最終的には敵味方なく仲良くミー坊が作ったあれは沖漬けかな? アオリイカの料理を食べる会として収まります。

 不良に憧れるというのは活発な中学男子位にはありがちなことだと思うのですが、一方で閉塞的な大人の社会に片足を突っ込んで、自分の将来の息苦しさに対する抵抗だという部分もあるのだとは思うのですね。

 そういう不良少年たちが、自由に生きて先に向かう部分を持っているミー坊によって、ちょっと視点が変わるというきっかけになっているということが、この辺りの不良たちとのエピソードでうまく描かれています。

 これがおそらく、さかなクンさんが言う「いじめられたりすることは全然なくて、釣り教えてくれよとか言われてみんなで仲良く遊んでたんですよ」というくだりの辺りなのでしょうね。

 しかしこの後、社会に出る準備の辺りで、ミー坊自身がこの問題と向かい合うことになります。

 

                                              つづく


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