さて、こっから映画「RRR」についてのネタバレが含まれますので気を付けて下さいね。
では書いてゆきますよ。
まず、冒頭で物語を牽引する出来事が起きます。
時代背景は1920年代、イギリス植民地時代のインド。山岳民族の村にインド総督一行が狩りに来ている、ということなのですが、この映画、時代設定には相当嘘があります。
まず、主人公の二人は実在の革命家なのですが、中身の話はまったくのオリジナル、二次創作です。
そんな史実は存在しない、ということがこの映画では描かれています。
そういったディティールについては、この映画もうひたすら「面白きゃいいんだよ!」と言う感じで振り切っています。
例えばイギリス領事官でパーティが行われるシーンで、イギリス人がインドの人たちにダンスでマウントを取るシーンがあるのですが、その中で語られる「サルサ」はこの時代は存在していません。
あれは60年代くらいにジャズの影響を受けてアメリカ東海岸で作られたダンスなので、この時代には存在していない。
ただ、大切なのはこの映画の中でダンスを用いて何を表現したかったのか、ということなのですね。
劇中の園遊会では、西洋人の社交界らしく男女でペアダンスが行われていて、インド人に対して「お前ら茶色い虫けらどもはダンスなんて出来ないだろ」とイギリス人たちがえばり腐っているのですが、これ、物凄く身体文化的には意味があることなんですね。
そのダンスが得意なイギリス紳士「俺たちはタンゴも出来るしフラメンコも踊れる!」と誇らしげに見せびらかすんですが、これ、文化盗用、文化帝国主義の話をしているんですね。
日本人はペアダンスを見るとなんでも「社交ダンス」だと感じると思うのですが、実はそうではないんですね。
社交ダンスってのはイギリス人が作ったダンスで、踊り方の種目として上に書いたタンゴの他に、サンバやブルースなど、沢山の物があるのですが、それらの名前に反して、それぞれのダンスはまったくタンゴでもサンバでもブルースでもないんですね。
これ、どういうことかというと、大英帝国が世界的に植民地を拡げて侵略していた時に、各地の人たちが踊っているダンスを取っちゃうんですね。
真似をして、自分たちなりにアレンジした物を、現地のダンスの名前で自分たちの「社交ダンス」の一種目だということにしちゃうんです。
なので、劇中のダンスが得意な紳士が行っている「タンゴ」と、本物のアルゼンチン・タンゴは実は違う物なんですね。
サンバも同じです。
フラメンコっていうのは、少数民族「ロマ」のダンスで、彼らはアーリア人、もともとインドから発生して流浪してきた民族だって言われています。
そのロマのダンスを盗んで、このイギリス人は得意げにインド人に見せつけているんです。
ブルースに至っては、みんな知ってますよね?
タンゴとは元々、酒場で娼婦がお客を取るための相手に密着して誘惑するためのダンスだったと言います。
これ、今年公開の映画「エルヴィス」の中で、沼地地方の掘立小屋の中の酒場でそういうシーンがありましたね。
あれ、あの時も書きましたが、あれが元々の「ジャズ」です。
これでこの話をするのは三度目くらいですかね。ジャズってのは性行為を意味する隠語で、だからあぁやって股間をこすりつけてお客を取るっていうダンスを指していたんですね。
その時のBGMがジャズ。
だからそれに影響を受けて育ったエルヴィスは股間を振って踊るんですね。
そして、その音楽が白人たちに見止められて行った時に、セックスって意味の言葉、ジャズはまずいから、白人種はその音楽のタイトルを「スイング」と変えるんです。
何かを「振る」という意味ですね。何を振るんでしょうね。エルヴィスを見ればわかりますね。
で、そこからエルヴィスを始めとする「ロックンロール」が生まれます。ロック&ロール「振って回す」という意味です。
何をでしょうね。エルヴィスを見ればわかりますね。
だからジャズもエルヴィスも反道徳的だ、卑猥だ反社会的だと言われていた時代があった訳ですよね。
このように、白人種は異民族の文化を剽窃して、漂泊して自分たちの物にするということを繰り返してきています。
もうこれ、ローマ時代からやってることです。
で、RRRの中で、イギリス人青年が主人公たちを「踊れない茶色い虫けらども!」と罵っている時に、彼等に雇われている楽団の中の、黒人種のミュージシャンがいたたまれない顔でうつむくってショットがあるんですよ。
これ、ジャズやブルースの経緯を理解すると意味がよくわかりますよね。
彼らの盗用に加担してしまっていることが心苦しいんですよね。
そういうホワイト・ウォッシュの象徴として「RRR」ではイギリス人の社交ダンスが描かれていると読める訳です。
つまりこれ、白人優位主義へのアジアからの抵抗ということを描いている映画なんですね。
いつも私が書いてきていることでしょう?
だからもし、頻繁にここの記事を読んで理解してくれている人がいるとしたら、この映画はメチャメチャ「あ、あそこで書いてた奴だ! あ、これも知ってる! 読んだことある! こういう捉え方なのね」と納得一句と思うんです。
つづく