さて、前回は現代人の運動には基本的に機動力系とパワーの出力系、そして固定系の三つの姿勢があるという話がありました。
今回はこの三つ目、固定系についてから始めたいと思います。
この固定系、前回は射撃の時に必要だということを書きました。
的を狙って打つ時には、反動が来ても身体が動かないという力が強いほど大きな威力を発揮できます。
銃でしたらそれは発砲時の火薬の威力に負けない力であり、弓なら弦を引く時に姿勢がぶれない力が大きいほど強弓を引ける。
で、ですね。
この力を発揮する時に、もし、一般的に常識的な「良い姿勢」を作ってきれいに身体をまとめると、これは弱くなるんですね。
もし、人体を四角形に均等に骨格と重心のバランスを作って、行儀よく椅子に座っているような状態に設置して銃を撃ったら、間違いなく反動で姿勢が崩れるはずなんですよ。
ここに「常識的に姿勢が良いのは正しいことだ」という現代人の姿勢信仰が嘘であることが暴かれます。
座ってでは無くて、立射でも同じです。かっこよく「きをつけ!」の姿勢で打ってもやはり、肩は上がり、胸から上はのけぞり、腰砕けになって下半身は下に崩れて、後ろ向けに倒れそうになるでしょう。
きをつけは軌道系の、繋がりが弱い、力が出ない状態にセットした姿勢なんですね。
では、反動に強い固定系の姿勢はどういう物かと言うと、本で学ぶ限り、一般的に言って汚い姿勢、左右不対象の姿勢です。
座る時には片膝立ち、より安定するのはうつ伏せだと聴きます。
うつ伏せの時も、左右の足を不対象に開いてトカゲのような姿勢になるとも言います。
そうすることで反動と言う外からの力に耐えられる。受動的に大きい力を発揮できるというのですね。
さらに言うと、良いスナイパーはここで筋肉をアイソレーションさせているとも言うのです。
左右不均等な骨格に対して、さらにその内部で筋肉の働きも骨格に逆転させる。
そうすると、二重に固定力が働きます。
すなわち、反作用の力ですね。
このような力の受動的な流れのつなぎ方を体内でピタゴラスイッチのようにする、というのは中国武術の基本構造です。
ですので、その体内に働く力の構造を教わらないと、正しくその門派のことを教わったとは言えない。
よく言う、双重は違って単重が正しいというのもこの左右不均等のピタゴラスイッチの一つですね。
おそらくはこの構造への理解がないと、ピタゴラスイッチを維持する力の働きは「無駄な力が入っている」と見なされることでしょう。
無駄ではないのです。その力が骨格の代わりをしていて、無駄な骨格を使わないようにしているのです。
また、力を抜くということも言い方を変えれば既存の力を捨てて別の力を使うことだということになるので、同じことを表現することもありえましょう。
さらに言うと、ある有名門派の掌門である大物先生、実は右は表看板の門の動きだけれど、左側を使う時には別の門の動きをしていると言います。
このように、造形が深くなるほど、外見から内面のことは分かりにくくなる。
なので一概に、姿勢だけで全貌を判断が出来るかというと、最近は少し難しい部分もまたあると思うようになったしだいです。
目的に対する調整というのが、機能と構造の関係でありましょうから。