自陣に返ったパリスは、なじられて裁かれるかと思えばヘレンから「私は強い人よりも優しい人が好き」などと言って慰められます。
実に現代的な「優しい」価値観がこちらにはあるのですね。
しかし、パリス自身はこの自らのダメっぷりを猛省するという成長が見られます。
この時から、公人としての責任を果たし、強くなろうとする姿勢が芽生えてゆきます。
一方で、戦況は混迷します。
被害者のメネラオスが居なくなったいま、もはや戦争の意義はなくなりました。
しかし、会議を開いてなんやかんやあった結果、すでに直接の意味がなくなった戦争は継続されることとなるのです。
トロイの城塞は硬く、はっきり言ってアカイア兵は死んでゆくばかりの消耗戦です。
アキレスも配下を率いて帰国を計画するのですが、その中で痺れを切らした従兄弟のパトロクロスがはやってアキレスの装備をまとって指揮権をはく奪し、部隊を率いて出陣してしまいます。
映画版ではパトロクロスは年上のお目付け役ではなく、年下でアキレスの弟子のような存在として描かれています。
結果、アキレスはヘクトルと決闘をし、討ち取られてしまうのですが、この時に地にふっして兜をはぎ取られるというシーンが印象的でした。
パトロクロスが非常に幼く、弱々しく見えて、討ち取ってしまったヘクトルも「子供じゃないか……」という顔をしているのですね。
致命傷を負い、苦しんで泣いているパトロクロスを、ヘクトルはためらいながらも楽にしてやります。
しかし、これを知ったアキレスは怒り狂い、ヘクトルに決闘を申し込みます。
この一連の各人の過ちや情動によって、また戦局は悪化して悲劇の歯車が動き始めることになるのです。
ヘクトルはアキレスに敗北して死亡。
怒りに我を見失っているアキレスはヘクトルの亡骸を神話通りに馬車で引きずり回して屈辱を与え、陣営に持ち帰ります。
その夜、トロイの王であるプリアモスがひそかにアキレスの陣営を訪れて、息子は正々堂々と戦ったのだから亡骸を汚すようなことをせず、敬意をもって遺体を返してくれと頼みます。
その姿にアキレスは自らが間違っていたことい気付いて「あなたはうちの大将より立派な王だ」と謝罪し、亡骸を返し、その後十二日間は喪に服して攻撃をしないと誓います。
手元に置いていたブリセイスにも「傷つけるつもりはなかった」と謝罪し、家族の元に返るといい、とプリアモス王と共に返します。
ここでも、こういう現代人的な個人の姿が描かれる訳です。