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TROY 5

 アカイア軍が喪に服している間に、軍師のオデュッセウスが木馬の策を発案します。

 せっかくアキレスが仁義から休戦を作ったのに、上層の政治戦略部はそれも活用してしまうんですね。

 喪中にアカイア本体は撤退し、木馬を残して去ってゆくのですが、ご存知のようにこの木馬の中にはアカイアの精鋭たちが潜んでいます。

 とはいえ、ここにはアキレスのエリート部隊はいません。

 彼は自分の部隊の仲間たちに状況を悪化させてしまったことを謝罪し、彼らを国に帰らせています。

 しかし、自分はこの後のトロイア陥落に備えて、ブリセイスを助けるべく木馬に潜伏したのです。

 ここでも、彼の反抗的で自由を尊ぶ気質が現れています。

 彼の行動基準には常に、永遠という物があり、これが作品のテーマになっています。

 彼が曰くには、神々というものは永遠の命を持っているがために、一瞬一瞬を本気で生きられる人間に嫉妬しているのだとのことです。

 そのために、彼自身は如何に勇敢に戦い、いかに激しく愛したかを求めることで、一瞬の人生のうちに自分の生の既成事実を残そうとしています。実存主義者です。

 軍規や大局に興味を持たず、個として自分を立てることだけを人生の指針としている。

 その意味で、理性的に功利主義を推し進めるアカイア人たちよりも情に流されるトロイア人に近いところがある。

 木馬の奇計が成功した後は、無残な掠奪が描かれます。

 アカイア人は凶暴に都を侵し、市民としての責任に目覚めたパリスは国民の避難誘導に走ります。

 どうにか城内の人々を逃したのち、彼はヘレンが止めるのも聞かずに、まだ残っている市民が居るだろうと街に戻ろうとします。

 ここで彼もまた、自分を捨てて人々のために尊い行動を選べた者として己を立てることになるのです。

 この時に又、一つの重大な出来事が起きているのですが、これは後で話します。

 パリスが市内に戻ったときには、アガメムノンが率先して掠奪をしていました。

 神殿ではブリセイスが神に祈りを捧げています。

 この映画では超自然的な要素が省かれているため、カサンドラが出てきません。

 代わりに、彼女が神殿で襲われる役割を担うことになります。

 先に書いたように、小アイアースは出てきませんので、彼女を襲うのはアガメムノンとなります。

 そしてなんと、彼女はアガメムノンを刺し殺してしまうのです。

 タランティーノを先取りした歴史改ざん!

 そこにアキレスが現れます。

 アキレスが助けに入ってアガメムノンを殺すのではだめだったのでしょうか。

 プロットは変わらないでしょう。

 しかし、ここでブリセイス自身が故郷を焼き滅ぼした大王を殺すというのは、やはりテーマ的に重要なことだったのでしょう。

 アキレスはブリセイスと共にトロイから脱出しようとするのですが、それを目撃したのがパリスです。

 神話では卑怯者のパリスが交渉の場に居たアキレスを射殺したというエピソードがあるのですが、ここでは決してそうはなっていません。

 彼女は略奪されそうになった従妹を守るために敵国の兵を射殺してたという形になっています。

 足首のアキレス腱を射られ、持ち前の機動力を失ったアキレスは、燃え盛る都の中でそのまま射殺されてしまいます。

 陥落後のトロイで、アガメムノンを始めとした自軍の物を荼毘にふっするところで物語は終わります。

 軍師のオデュッセウスはこの葬送の場で、自分がこの大戦に参加し、アキレスやヘクトルという英雄たちと同じ時代を生きたということを噛みしめるナレーションで幕は閉じます。

 やはり、作中において機能的、合理主義、功利主義の権化のようだったこの軍師にもまた、彼らの生き方が届いた、ということなのでしょう。

 さて、先にパリスについて重要なポイントがあると書きますのでそれを書きましょう。

 自国民を逃して自分は都に戻ろうという時、パリスは避難民の中に居た、父親に肩を貸していた若者に例の、王権の象徴であるトロイア王家の剣を渡します。

 もし都や国が無くなっていても、その剣があり、トロイア人さえいれば、トロイアという国は残り続ける、つまり、国とは国土ではなく民である、ということです。

 これは非常に、ユダヤ人やロマを思わせるメッセージです。

 剣を私が若者に、パリスは名前を訊きます。

 彼は答えます。

「アイネイアース」

 そう。彼こそが、難民となってアフリカにまで至り、そこからイタリア半島に北上して現地で土地の主に入婿してローマの都を拓いたアイネイアースです。

 もちろん、そのローマから白人優位主義がはじまり、ギリシャやローマのオリエンタルな文明は歴史上から改ざんされてホワイト・ウォッシュがはじまります。

 だけど、それは嘘だぞ、お前たちの祖先はアジアにあるんだぞ、ということを、この物語ではちゃんと織り込んでいるのですね。

 世間の無知な人々がなんとなく思い込んでいることを「お前らは間違っているんだぞ、お前らの無知と無関心が世の中に間違ったことを広めているのだぞ」ということをチクリと刺している訳です。

 要するに、私と同じことをしている。

 美青年俳優を主演としたビッグ・バジェットロマンス史劇と言う大脚色をしながら、かつ本当のことを中に潜ませておいて、かつ、世間的な大成功を果たしたという、大人の上手いやり方を果たした映画のお話でした。


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