高重量四十代男性の、段階的懸垂のデータが取れたことには非常な意味があると前回書きました。
というのは、これは中年男性の運動能力、筋力の向上に関するデータであるからです。
私の50代の生徒さんたちにも、筋肉に刺激を与えるような練功を指導してきましたが、皆さん体格に良い変化が出ています。
養生功をしながら武気功としてのキャリステニクスをしてゆくことで、著しい身体的な向上があります。
以前から私は、武術をしているという人でも、あるいは教えているというような人でもまず腕立て伏せはまともに出来ないということを書いてきました。
懸垂などは論外です。
もちろん、極端に体重の軽い人は別枠です。
しかし、平均的な体格の成人男性、女性はまずまともな腕立て伏せが出来ない。
懸垂が出来るという人も、サポーターなどのギアの補助ありきでやっていて、実際に自重をバーから引き上げるだけの指の力はないことが多いです。
これは、生物学的には非常な問題です。
そもそも、人類は二足歩行を常態とする唯一の生物なのですが、それでも上肢、すなわち腕と言うのは自重を支えて移動に用いる道具として存在しているはずなのです。
ですので、一定の割合の自重を負荷とした上で充分に可動域の端から端まで屈伸が出来ないというのは、ほとんど奇形化に近い病的な状態です。
つまり、ほとんどのこの国の成人男女は病的機能退行をしているということなんですね。
人類史上、こういう人間が大多数であるって社会なんて、おそらく今現在くらいの物だと思います。
百年前までは、この国でもほとんどの人間が肉体労働者でした。
朝から晩まで、常に自力で荷物を抱えて自分の足で移動をしていた。
しかしいまは、ほとんどの労働時間は椅子に座ったままで、その結果自分の体重を押し上げることも引き上げることも出来なくなってしまいました。
以前の記事に書きましたが、老化すると筋肉が年間0・数パーセントづつ消滅して脂肪に変わってゆきます。
健常な筋肉量がある人間ならそれで問題はないのですが、健康状態で腕立ても出来ないくらいの筋肉量の人間だとこの経年劣化は深刻なことになります。
元々自力で歩くのが精いっぱい程度の筋量なのですから、寝たきり老人まっしぐらの極めて強力な予備軍なのですね。
国の方でもそれを避けるために高齢者の筋トレを推奨しているのですが、中々常識化するまでには至っていません。
つづく