本来は必要ないのに、ステロイドを誤用、ないし濫用するとどうなるか。
前の記事で、成長ホルモンには成長ホルモン抑制ホルモンという物が働きかけてバランスを調整しているということを書きました。
この抑制ホルモンの働きと言うのは、成長ホルモンの量によって調節されます。
血中に成長ホルモンが飽和してくると、視床下部が「もう必要ないな、今度は抑制ホルモンの方を分泌しよう」ということになってブレーキを掛けるのですね。
さらには、分泌量も低下します。
だから性能のあるボディ・ビルダーが三年くらいベストのトレーニングをするともうそこでブレーキがかかってしまう。
これがもし分泌された物では無くて、外部から投入された物であっても結果は同じなのです。
ですので、うっかりと触れてしまったステロイド剤などが体内に入ると、本来の体内でのステロイドの分泌が減ってしまいます。
つまり、生命のレベルが下がってしまうのですね。
こうして、ご家族の背中に毎日ステロイド剤を塗ってあげていた方が免疫力低下などをおこし、病気になってしまう、というような事故が増える訳です。
そのレベルでさえこういうことがあるのですね。
わざわざ自分でステロイド剤を大量に投与して筋肉を爆発的に成長させたボディ・ビルダーはどうなるでしょうか。
肉体の本来持つホルモン分泌能力が大幅に衰えます。
つまり、外からステロイドを供給し続けないと、自分では調達することが出来ない虚弱な分泌システムしか持たない肉体となってしまうのです。恐ろしいですね。
私たちが格闘技少年だった80~90年代の頃、ボディ・ビルダーのことを「ノミのキ〇タマ」「おかま野郎ども」と呼んでバカにする風潮がありました。
ジェンダー的には非常に後進的な大変に愚かしいレベルの低い発言と認識です。
このような愚劣な言葉で表現されたことの実態は、ボディ・ビルダーがステロイドを常用しているために、上述のような理由でホルモンの分泌腺が退化しているという認識です。
男性ホルモンである、テストステロンの分泌腺はどこでしょうか。
精巣です。
視床下部から分泌された「性腺刺激ホルモン放出モルモン」が脳下垂体前葉に働き、そこから「黄体形成ホルモン」という物が分泌されます。これが性腺刺激ホルモンですね。これもステロイドホルモンの一種です。
このホルモンが精巣に働き、そこからようやくテストステロンといホルモンが分泌されます。
テストステロンの働きによって男性的体格が誘発され、タンパク質合成が行われます。
つまり、食べたたんぱく質を合成して自分の肉体にするという作用ですね。筋肉の増量ももちろんこれに含まれます。
しかし、外部からステロイドを投与していると、体内での分泌力が弱まり、分泌腺が退化します。
つまり、精巣が縮小する、というのが「ノミのキ〇タマ」という侮蔑御表現になっていた訳です。
さらに。
そのようにして男性ホルモンの分泌が低下したビルダーの中には、女性ホルモンの比率が高くなる人が居ます。
というのは、男性ホルモンも女性ホルモンもそもそもは同じ視床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモンによってコントロールされているからです。
それが発散されても、男性ホルモンの分泌性腺である精巣が退化していれば男性ホルモンは分泌されません。
しかし、女性ホルモンは分泌され続けてしまう。
ということは、血中の女性ホルモン比率が高まります。
その結果、女性化乳房と言う症状が起こることがあります。
これは、男性なのに女性のような乳房が出来るという現象です。
一見男らしさの極まりのようなボディ・ビルダーが、実際は生殖能力を失っていたり、女性化した乳房がついているという皮肉がこの残酷なバッド・ジョークを産んだのでしょう。
つづく