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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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古人と内力 3

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ここで一度、馬歩について少しだけ触れてみましょう。

 馬というのは、乗っていると上下動が激しくて振り落とされそうになるものだそうです。

 そのために、鐙と手綱が必要になってきます。

 ただでさえ不安定なその姿勢に対して、バランスを取って乗りこなすというのがおそらくは通常の手段なのでしょう。

 しかし、騎馬民族というのはそれだけでは済まない部分が出てきます。

 馬に乗って、兵器を持って殴り合いをするからです。

 当たり前ですが、上下動をしているうち、上に跳ね上げられているタイミングで相手をたたけば、反作用に耐えかねて自分が落馬させられてしまいます。

 想像して

ください。自転車に乗っているときに横から突き出ている枝に体がぶつかったらどうなりますか?

 ジャッキー・チェンやチャップリンの映画で何度も見てきましたね。

 これを避けるには、ぶつかった対象より自分のほうが安定が強くないといけません。この安定力を中国武術では定力と呼んで重視しています。

 その定力を騎乗で得るために西洋の騎士が選んだのが、甲冑を重くするという手段です。

 これによって馬に対する下への位置エネルギーが強く働き、的にぶつかっても落とされづらくなります。

 彼らが行っていたといわれるトーナメント(競技試合)にジャウストという物があったそうなのですが、それは実に奇妙なものです。

 まっすぐにひかれた馬柵を挟んで、こっち側の端っこに片方がおり、うらっ側の逆端に対戦相手が構えます。

 そしてヨーイドンで馬を走らせていって、左手は馬にしがみつき、右手では槍を相手のほうに突き出してすれ違ってゆくのです。

 双方が交差したときに、槍で真芯を捉えられて、運動エネルギーを受け止めきれなかったほうが突き落とされることになります。

 これは騎士の訓練として行われていたものだそうですが、当然軽いほうが落馬しやすくなります。なので、騎士のたしなみとして重い鎧を装備する必要が出てくる訳です。

 もっとも、かなり早い段階で飛び道具が戦闘の中心になったので、重い鎧は的になるだけとなって装飾用にシフトしていったそうですが。

 この、甲冑のになっていた重石の役割を自分の肉体で行っていたのが、モンゴルの騎馬民族であり、そのために機動力と威力を備えた彼らは遠征というアウェイ戦ばかりであれながらあれほどの優位をもってユーラシア大陸を席巻できたのでしょう。

 速くて強くて遠近戦両方に勝った騎馬民族の姿はヨーロッパ人にとって民族的トラウマとなっており、ギリシャ神話のケンタウロスや聖書の黙示録にあるイナゴ、あるいは映画やゲームに出てくるゴブリンの姿としていまだに恐れられているようです。

 日本のマンガ、ジョジョの奇妙な冒険では中世のイタリアに秘かに伝えられているファミリー・アートとして馬の鐙のからくる土台の力を活用する秘儀が出てきますが、これは気功法を波紋法と言い換えるなどしてきたかの作品が、上手く騎馬民族武術を表現したものだと思われます。

 余談ですがこの作品では自然に宿っているタオの力を黄金律と呼んで、この鐙の力の根幹思想として扱っています。

 ギリシャ哲学経由でケンタウロスたちからイタリアに伝わった物なのかもしれません。

 さて、話がだいぶ迂回しましたが、定力を求める立ち方が騎乗戦ではなく地上戦にも活用されたのが中国武術の馬歩による発勁の始まりだと聞いたことがあります。

 有名な沈墜勁、震脚というのは、騎乗での重心が落下したときの鞍上での踏ん張りだということで、いまでも私の友達は「この技はもともとは馬の上で使っていた奴だ」と教わったこがある、と言っていました。


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